※代理マスター設定。バレンタインイベントのマーリンお返しネタバレがございますので、ご留意ください。
「……何を作っているの?」
「パペット人形だよ。見たことない?」
「いや、あるけど……フォウ君だよね。このパペット」
「そうだよ」とあっさり肯定したマーリンに信じられないような目を向けたなまえの頭の中では、マーリンがパペット片手にフォウ君と戯れる絵面ができていた。
“ほら、キャスパリーグゥ。フォウ、フォーウ!”
“フォーーウゥ!
……マーリンシスベシフォーウ!”
何も知らなければ可愛い小動物と遊んでいるように見えた気がするが、そんな事をしようものなら瞬時にフォウ君が怒りの蹴りを入れそうだ。
「フォウ君を怒らせたいの?」
「えっ、どうしてだい? 何か変かな。結構可愛くできたと思うけど」
どうやら想像のような使い方ではないらしい。
なまえはマーリンと同じソファーに座ると、彼の手元を覗き込む。
パペットは綺麗に縫い上げられていて、机に置かれている裁縫道具がなければ既製品のようにも見える。
針を何度か往復させるとマーリンは慣れた所作で糸を止めた。
「完成だ。というわけで、はい。
チョコのお返しだよ」
「あ、ありがとう。……でも、わたしまだチョコレート渡してないよね?」
「うん。でもくれるんだろう? 順序が逆だけど気にしないで」
ニコニコと笑いかけてくるマーリンに渡さないという選択肢はなくなった。
戸惑っていたが、観念してなまえはマーリンにチョコを差し出す。
かなり手の込んだチョコレートはブーティカや式の指導の元、作られたモノだ。本当なら他の人達に渡すのと同じ簡単なモノにしようとしたところ、「それはやめた方がいい!」と周りから強く云われて特別に作ったのだ。なぜあんなにも恐々と驚かれたのかはなまえにはいまだ謎である。
「ありがとう。キミが作ってくれていたのは知っていたけど、こうして実際にもらえると格別だね」
本当に嬉しそうな顔。
いつもの面白がるような表情ではなく、へにゃりと崩れた笑顔になまえは無性に照れくさくなった。それを隠すように先程もらったフォウ君パペットをいじっていると、ピンと思いついたとばかりになまえはパペットを手に嵌めた。
横にいるマーリンはチョコに集中していて完全に油断している。
なまえはほくそ笑むとフォウ君パペットをチュッとマーリンの唇に押し付けた。
「奪っちゃった〜っ、なんてね」
私の世界での大分古いネタだ。
不意打ちでフォウ君パペットからキスを受けたマーリンはキョトンと目を丸くしている。どうやら本気で驚いているようだった。
あまりの反応になまえにも動揺が走り始めた頃、急にマーリンは動き出したかと思うとなまえに抱き付いてきた。
「なまえ、今すぐアヴァロンに行こう!」
「なんで!? ちょ、ちょっと放して!」
ぎゅうっと強く抱き込んでそのままソファーに押し倒したマーリンを引き離そうと、なまえは付けたままだったフォウ君パペットで「マーリンシスベシフォウ!」と彼の長い髪を引っ張る。
それにマーリンはくすぐったそうに笑うばかりで、彼女を放そうとはしない。
「ははっ、ぬるいぬるい。そのくらいじゃ全然痛くないよ。
キャスパリーグもキミの百分の一でも可愛ければなぁ」
「むしろわたしはフォウ君に弟子入りしたい」
マーリンへのアタック(物理)について。
とみなまで口に出さなかったなまえは溜息を吐くと、他にチョコを渡さなくてはいけない人達がいるからいい加減放してほしいとマーリンの背中を叩く。
カルデアは人が多いので配り歩くだけでも一日使いそうなのだ。
だが、マーリンはなまえの願いとは裏腹に抱きかかえる姿勢をやめようとはしない。訝しげに思ったなまえは「マーリン?」と呼びかける。
その直後、耳元で囁かれた言葉になまえは硬直した。
「他の男に渡すのは、ちょっと許せない」
ついさっきまで弾むようだった喜色が全て剥がされた声。淡々として抑揚がない。
「ああ、ごめん。勘違いしないでね。
このカルデアでキミの行動を制限するつもりはないよ。
お祭りみたいなモノだし、人間でいうお付き合いというモノだって、私は理解している」
付け足された言葉が少しずつ、いつもの調子を取り戻す。
なまえはいつの間にか止めていた息をゆっくりとはきだした。
「理解はしている。けど、いわゆる嫉妬というのは怖いね。
一瞬で頭を埋め尽くす。自分でも何をするか分からないビックリ箱みたいだ」
なまえから身体を離したマーリンが“苦笑”というような顔を宿す。
離れる直前にちらりと見えた表情は完全な無だったのに、その一瞬で張り付けられた表情に逆になまえはぶるりと背筋が粟立った。
「大丈夫。安心するといい。私は理性的だ。ちゃんとそういったモノの制御はできる。
今回が最後だと思えば大抵は許せるさ。キミが他の男にモノを贈るのとかはね」
おどけたように「さあ、行くといい」と私を送り出すマーリン。
戸惑いながらもソファーから降りて、ドアに向かう。
部屋を出ていく前に振り返ると、マーリンはひらひらと手を振って笑っていた。
小さく手を振り返して、外に出る。
大分部屋を離れてから無意識に早足になっているのに気がついた。
ゆっくりと足を止めて、握りこんでいたパペット人形を見下ろす。
「今回が、最後……」
その彼によく似た瞳から、目を逸らした。
ガラテアの舞踏