「………」
今、私の目の前には、暁の外套を着た、知らない、誰か。
鬼鮫さんに頼まれてサソリさんを呼びに、サソリさんの部屋まで来たんですが、ノックをしても返事がなかったんです。
もしかしたらお昼寝中かな、と悪いと思いながらも扉を開けたんです。そこはごめんなさいサソリさん。
でも、そこにサソリさんはいなくて。
代わりに、さっき言った知らない誰か。
すごく怖いです。扉開けたときから、ずっとこっちを睨んできてます。蛇に睨まれた蛙状態です。まったく動けません。あちらの方もまったく動きません。
見た目、背が低くて、ずっしり大きくて、口布当ててて、髪型が特徴的で、鉄の尻尾みたいのがあります。
えっと…、
「こ、こんにち、は?」
外套来てるし、まだ会ったことのないメンバーなだけかもしれない。
そう思って挨拶してみたんですが……へ、返事…なしですか。無視されました。
「………」
う、あ…ど、どうしよう。なんかもう嫌です。この場から立ち去りたいです。
でも少しでも動いたら殺られそうでとても動けません。と、言いますか、サソリさんは何処。
「なにやってんだ?つーか邪魔」
「! ひ、ひだっ、さ…」
背後から聞こえた声に振り返えれば、そこには開けっ放しの扉を如何にも邪魔そうに睨む飛段さんの姿。
「なんだぁ?昼間っからサソリでも襲いに来たか?」
ニヤニヤと笑う飛段さんはよく分からないことを言ってますが、それどころじゃないんです!ヘルプミーです!
「…は?なんだよ」
カタカタと、震える手でサソリさんの部屋にいる知らない人を指さしたら、飛段さんはひょっこりと部屋の中を覗き、次に私の顔を見た。
「ヒルコがどうかしたか?」
「ひ、るこ…?」
あの人はひるこさんと言うのだろうか…?
未だにびくついてる私に、飛段さんは だからあれだよ、あーれ! と少し強めに言ってきた。
「あ、新しい人…ですか?」
「はあ?人ぉ?」
「え、ちがう、んですか…?」
ちらり、と未だこちらを睨んできているひるこさんに少しだけ視線を戻せば、次第に口角が上がってきた飛段さん。
え…な、なんで笑って……
「たく、仕方ねえな。なまえには言うなって、サソリから言われてんだけどよ」
ぽふん。
飛段さんは面白そうに笑ったまま私の頭に手のひらを置き、ちらりと横目にひるこさんを見やると私の耳元でぼそりと囁いた。
「…実はな、あれがサソリの本当の姿なんだよ」
くすぐったさと同時に聞こえたそれに、私は訳がわからず変に声を漏らした。
そんな私に飛段さんは、よしよし、と同情するように私の頭を撫でる。
「驚くのも分かるぜ。だけど考えてみろよ。三十路過ぎたおっさんがあんな若ぇはずねぇだろ?」
プライド高ぇからな、サソリ。 と、飛段さんはスッと私から離れ、ひるこさん…いや、サソリさんを再度見た。
「きっとなまえが勝手に部屋開けて怒ってんじゃね?サソリそういうのめっちゃ厳しいからよぉ」
「…っ。ひだん、さん。ど、どうし…」
「あー、どうもできねーな。つか俺も暇じゃねーんだわ」
じゃーな。 と、ひらひらと手を降りその場から消えていった飛段さん。
結局何も解決してない状況でどっか行っちゃうなんて酷い。
「……っ。さ、さそり…さ」
未だにこちらを睨んで微動だにしないサソリさん。
謝りたいのに、上手く声が出ないし、サソリさん、すっごく怒って、る。きっと、私のこ、と…きら、嫌い、に。
だ、だめだ。視界、が、にじん…で、
涙腺タイムアップ
(ひああぁ!さっサソリさ、ごめっごめんなさあああい!)