「うっ…ぐす、ひっく…」

「よしよし。怖かったねー」

真っ赤になった瞳から未だに落ちる涙を必死に止めようとしているなまえの隣で、子供をあやすようにその頭を優しく撫でるゼツ。
その横には、デジャヴだろうか。ぼろぼろの飛段が倒れている。

「なまえを泣かすなと言っておいたはずなんですがねぇ…」

そう溜め息混じりに発する鬼鮫に対し、 元はといえばお前が呼びにこさせたんだろ。 と、少し離れたソファーで頬杖をつきながら面倒くさそうに事を見るサソリ。

「つーか勝手に人の部屋開けるコイツもわりーだろーが」

「あんな怖いヒルコつくるサソリが悪いよ」

ねー? と、やっと泣きやんだなまえへ聞くゼツに、サソリは少し、眉間の皺を増やした。

「……あ、の…。さそり…さん、…」

コトン、と音をたてたグラスのあとに、か細いなまえの声が続く。
テーブルに置いてあった水を一口飲み、おずおずとサソリの顔を見る瞳には、不安の色が見え隠れしている。

「その、勝手にお部屋を開けてしまい、本当にすみません、でした…。サソリさんが怒る、のも、当たり前です…。ほ、ほんと、に、ごめ…な、さ…」

一度は治まった涙が再び瞳から零れ落ち、それを必死に止めようと目を擦るなまえ。
それを見たサソリは、小さく息を吐いた。

「なんでんなボロボロ泣くんだよ。めんどくせぇ」

その言葉と声色に怒りは感じ取れないが、なまえは嗚咽混じりに言葉を紡いだ。

「だ、だって…さそり、さん黙、って…たから」

「だからあれは傀儡だっつったろーが」

「っ…でも、わ、わたし、ほんとっ、本当に、…嫌われたかと…思っちゃっ、て……っごめん、なさ…いっ」

途切れ途切れの、何度目か分からない謝罪の言葉。
サソリは軽い舌打ちをし頭を掻くと、荒い足取りでなまえのところへ向かった。





落ちた涙の行き先
(もううぜーから謝んな。の言葉と濡れた袖口)