「ただいまでーす!」

「…誰もいないぞ、うん」

元気よくアジトに帰ってきての第一声に、デイダラのクールな返しが刺さる。
お家に言ったんです…。 としょぼくれるなまえを置いて、皆すたこらさっさと中へ。
腹減ったー!と叫ぶ飛段につられたか、きゅるるとなまえのお腹も空腹だと叫んだ。

「──さぁ。では作りましょうか」

ずらーっと並べられた材料と、お昼を過ぎていると告げる時計。
皆さんのために頑張らなくては!と意気込み、卵を手にとるなまえの裾を、誰かが引っ張る。

「オイラが割ってやるよ」

よいしょ、とイスを持ってきてその上に乗っかったデイダラは、パックから取り出した卵を綺麗に割って見せた。

「わあ!デイダラさん上手ですね!」

ぱかぱかぱか。
慣れた手つきで一個二個と卵を割っていくデイダラに、なまえは尊敬と驚きの眼差しで目をキラキラさせた。

「驚いてないでその卵よこせ」

差し伸べられた手は、なまえが両手で包むように持っている最後の卵へ。
デイダラさんが料理できるなんて、と意外すぎてついつい見とれてしまい忘れていた卵を、あわあわと慌ててデイダラに渡そうとした途端、

「よこせ!」

ジャンプしてきた飛段に、乱暴にとられてしまった。

「えっ?あれ?」

「飛段!んなふうに取ったら割れんだろーが!」

一瞬のことでまだ状況がよく理解できていないなまえと、一瞬で事を理解したデイダラが一緒に口を開く。

「…あ!飛段さん!卵なくなっちゃったのかと思いましたよー!びっくりさせないでくださいっ!」

デイダラの言葉と、いつの間にか近くにいた飛段を見てやっとこさ卵を取られてしまったんだと分かったなまえ。
急に物が消えるなんてことあるわけないのである。

「デイダラちゃんそこ退けって!これは俺が割るんだよ!」

イスに乗ったデイダラを見上げる飛段に対し、デイダラはその場でしゃがみこみ飛段を見下ろす。

「いや、お前自分の不器用さ自覚した方がいいぞ。うん。どうせ殻入る」

「んなわけねーだろ!それに大きなお世話だ!」

「んなわけあるから言ってんだよ。オイラが割った卵台無しにするつもりか?うん。鬼鮫の旦那からも言ってやってくれよ」

余計に時間かかるぞ。 と、買ってきたものをしまっている鬼鮫に言うデイダラに、飛段はぎゃんぎゃんと言い返しご立腹。
鬼鮫も、 お腹すいたんでしょう?飛段。 と、デイダラサイドに立つ。
ただでさえ低い沸点をもうすぐ越してしまいそうな飛段に、両手で卵の入ったボウルを持ったなまえが、にこりと笑ってしゃがみこむ。

「飛段さんだってちゃんと出来ますもんね」

すっと、言葉ひとつに、すべてが飲み込まれた。
騒ぎがおさまって、不思議に思った他のメンバーもキッチンを覗き込むほどの一瞬。
割ってくれませんか? と飛段を見上げるなまえに、鬼鮫とデイダラはお互いを見合わせ、飲まれた雰囲気の中、飛段の反応を伺った。

「…そ、そこまで言うなら、やってやる!ちゃんと見とけよ!」

「はい」

よく潰されなかったヒビの入った卵を、ボウルの上に持ってきた飛段に、なまえは、 そこに親指を沿えて、ゆっくりです。 と柄にもなく緊張している様子の飛段を優しく見つめる。
普段なら、言われなくてもできる!と反発しそうだが、それがないのは真剣なのかどうなのか。
そんな飛段の緊張を解くように、中身は綺麗に、銀の中へ落ちた。

「よっしゃー!」

「さすがですね飛段さんー!」

いえーい!とぱしんと掌を重ねる二人に、残りの二人は浅く息を吐く。

(いつもなら絶対ぐちゃぐちゃに割ってるのに…)

(なにはともあれ卵が無駄にならないで良かったです…)

やっぱりいつも通りだった?
はっとして、 俺が失敗するわけねーだろ! と不思議とタッチしてしまったことに顔を赤くする飛段に、 すみません! と眉を下げながらも口許が緩いなまえ。

甘い香り漂うキッチンに、毒されていく昼下がり。





彼女は魔法を知っている?
(あー!デイダラだけずるい!僕もチョコでハートかいてー!)
(…お前これわざとやってんのか?)
(え?)