暗かった視界に少し光が戻ってきたと思ったら、ずきり、と痛む首筋。
押さえようと反射的に動いた腕は、なぜか首筋に届かず、代わりに手首が痛んだ。
そのことに一気に意識が覚醒すると、最初に聞こえてきたのは人の声。
幸いまだ起きたことには気づかれていないみたいだが、一体これはなんなのか。
手は後ろで括られているみたいだし、焦りをなんとか抑えつつ聞こえてくる声に耳を澄ませば、 人違い…か? だとか、 どーすんだよコイツ。 だとか、 食べていい? だとか聞こえてきた。
え。た、たべる…って…

「いきなり連れてきてそれはな──」

ゴッ!

「「──っ!」」

いかにも理不尽すぎるであろう発言に我慢ならず顔を上げれば、鈍い音と共に後頭部に激痛。手で押さえることも叶わず、黙って痛みに耐える。

「てめぇいきなり顔あげんなよ!」

「ひっ!」

痛みで涙出てきた… と、霞む視界に思っていたら、いきなり髪を鷲掴みされ、顔を上げられる。目の前には、銀髪の人。

「聞いてんのかオイ!急に上げんじゃねーつってんの!」

くわっ!と効果音がつくんじゃないかと思う剣幕で怒鳴ってくる銀髪の人。
おでこが少し赤いことから、どうやらこの人とぶつかったみたいなんですが、いや、あの…そんなこと言われたっ…て…

「やめなさい飛段。いきなり顔を近づけたあなたも悪いわよ」

髪を掴まれている痛みと理不尽な言い分にぼろりと涙が落ちたとき、この雰囲気には似合わない凛とした声。
髪を掴まれているため、目線だけそちらに向けると、綺麗な、花色の髪の女性。

「そうだぞ飛段。泣いてるじゃないか。離してやれ」

女の人に続いて聞こえた声は、オレンジ色という派手な髪をした男の人。
銀髪の人は2人の言葉が気に入らない様子だが、舌打ちをしながらも離してくれた。

「あ、あの…ここはどこでしょうか」

よく見れば結構な大人数がいることがわかり、かなりあの…こ、怖いんです…が、やっぱり今の状況を知らなくては…ですよね。

「知ったら死ぬことになるがいいな?」

「…!しっ死ぬっ、て!」

次は、これまた赤い髪した人がずいっと顔を近づけてきて、なにを言われるかと思えばこの一言。

「俺らのこと見て生きて帰れると思ってんのか?」

「な、え…っどうして、」

「は?なめてんのか嬢ちゃん?俺ら暁のアジトに来たからには死んでご帰還に決まってんだろ」

あ、やっぱご帰還は無理か。 と、ゲハハと笑う銀髪さんですが、好きで来たわけじゃないですし第一アカツキなんて知らないし帰る場所なんかないし…挙げ句の果てには死ねですかそうですか。

私も言われっぱなしなんて耐えられないので、今思ったことを言ってやりました。そしたら皆さんびっくりした顔です。
え、なにかおかしなこと言いました…か?

「てめぇ死にたくないからって冗談はやめろ」

「じょうだん…?」

「しらばっくれてんじゃねーよ!暁知らねーなんててめぇどこの里の忍だ!」

「ひっ!さっさささ里なんてないんです次いでに忍でもないんですほんとごめんなさいい!」

もうやだ。やだやだやだ。この銀髪さん怖いです。
こんな人たちと話してるぐらいならいっそ死んだ方がマシな気してきます。あ、でもやっぱり死ぬのはイヤだ。むしろ死ぬ前の痛いのがイヤだし死ぬわけにはいかないんだった。

「お前さん額あては?」

「…?ひたい、あて?」

もうどうしていいか分からなくてまた涙が出てきそうなのを必死で耐えれば、次は黄色の長髪の人。
アカツキとやらは随分カラフルな人がたくさんなんですね。なんて場違いながら思っていたら、黄色さんはヒタイアテとやらを見せてくれました。

「えっと…、ない、です」

でも忍の人がつけていたのは見たことがあるなあ と思っていたら、黄色さんは小さく溜息をつき、 どうすんだよリーダー。 と言った。

「コイツまるっきり別人だぞ」

「……」

「たくっ。馬鹿すぎんだろ」

なんて、困ってるアカツキさんたちですが、私はどうしたら良いのでしょうか。なんだか悩ませてしまって申し訳な──

「殺しちゃえばよくね?」

「!?」

微妙な空気が漂う中、不意に銀髪の人がぽつり。
それに私はぶんぶんと首を振る。

「いやいや、嬢ちゃんに拒否権はねーだろ」

「え!?やっ!だっ、だって、勝手に連れてこられたんですよ!?私に非は…!」

「あ?」

「、っ」

あまりにこれは酷いのではないかと抗議すれば、人を殺せそうな目付きで睨まれた。

「やめろ飛段。明らかにこっちのミスだ」

「いや、こっちってかリーダーのミスだぞ、うん」

「…暁は組織だ。連帯責任だ」

オレンジさんの、詰まらせたその言葉に、やいのやいのとヤジを飛ばす皆さん。
だが、オレンジさんはそれを無視。座っている私の前に来たかと思えば、目線を一緒にし、こう言った。

「ここにいてみるか?」

「へ…?」

一瞬、このオレンジさんがなにを言っているかよく分からず、間抜けな声が出てしまった。

「はあ?!本気かよ!生かしといて意味あんのか!?」

殺しちまった方が楽じゃねーか! と、どうやら気に入らない様子の銀髪さんを宥め、オレンジさんは続けた。

「別に、忍でもなければ俺たちのことも知らないようだしな。何も危険性はない。」

それに、元はこっちのミスだ。 と、皆さんを説得したオレンジさんに、 だからテメー単体のミスだ。 と赤髪さん。

「どうだ?ま、これを受け入れてくれない場合は、本当に命を奪う羽目になるがな」

なんて。オレンジさんは言いますが、死んじゃうくらいなら受け入れますよ。それに、行く当てもないですし。

「…じゃ、じゃあ…お願い…しま、す」





喉元過ぎれば苦味も甘美
(居場所ができました?)