「ん……」

重く閉じた瞼がうっすらと開く。
ああ、いつの間にか寝てしまっていたみたい。
昨日は皆さんが小さくなってしまって、楽しかったけどちょっぴり大変な一日だったんだと、もう一度瞼を閉じて小さく息を吐いた。

夜は鬼鮫さんがお茶を持ってきてくれて、そこからお泊まり会だーって喜んで、そしたら順番順番で、皆さんが私の部屋に来たんだった。

最初の来訪者はゼツさんで、なんだか鬼鮫さんと見つめあってたっけ。
ゼツさん来たときから機嫌悪そうだったけど鬼鮫さんニコニコで話しかけてたなぁ。
そのあとはデイダラさんと飛段さんが一緒に来て、なんで鬼鮫さんとゼツさんがいるんだって騒いで、一気に賑やかになったんだ。
それでうるさいって角都さんとサソリさんが怖い顔してきて私が謝ったら次にイタチさんが来て、なんかもう夜中なのにてんやわんやして……ああ、そこで寝ちゃったんだ。そこから記憶ないもん。

「何時だろ…」

あ、れ。騒ぎすぎちゃったからかな…?ちょっと頭痛いかも。

中々ぱっちり覚めない目を擦って、とりあえず体を起こそうとすれば、なにかにそれを阻止される。
お腹回りにきつめの違和感がして、不思議に思ったことで少し覚醒した頭と目が理解したのは、お腹に回された腕の存在。

なんで腕がお腹に巻き付いてるのかつきとめるため、起き上がれない体をなんとか捩り後ろを向けば、そこにはすやすやと眠るゼツさんの顔。
それも、小さくなった姿ではなく元の、大人の姿に戻ったゼツさん。

一瞬思考が止まって、目の前のアップのゼツさんに心臓がばくんと跳ねる。
うわわわ、睫毛長い。寝顔は見られても見たことなんてないから、大人の男の人の寝顔に体中が反応する。

あつい、くるしい、でも、なんだか可愛い。なんて、最後呑気なこと思ってる場合ではない。
息のかかる距離に慣れることなんてないのだ。
昨日のサソリさんのだって落ち着くまでにすごくかかった。
いけない、早くこの状態から抜け出さなくちゃ。こんな真っ赤な顔なんて見られたくな──

「おはよ、なまえ。真っ赤だね、ドキドキしてるの?」

慌てて、潤む瞳がぱちりと合う。
閉じていたゼツさんの瞼は緩く開き、しなやかな睫毛の隙間から覗く瞳は柔らかく、真っ赤な顔の私を捉えて、笑う。

「ぜ、つさ…」

「あんまり可愛いと食べちゃうよ?」

固まる私の唇に、するりとゼツさんの親指が触れる。
撫でられた下唇から離れた指は、流れるように私の頬へとすべると、アップのゼツさんの顔がさらにゆっくりと近づいてきた。

「……っ」

「…オ前ラ、殺気ガモレテルゾ」

「ほーんと、犯罪者の風上にも置けないね」

開いてるのはもう限界、と、きゅっと目を閉じたら、届いたのは黒ゼツさんの低くゆったりな声と、続く白ゼツさんの笑いの混じった声。
ふわっと上半身が起き上がる感覚と共に、背中に温かさを感じる。
何が起きたのかとぱちりと開いた目の前には、朝からご機嫌の悪そうな、元に戻った皆さん全員こちらを睨んでいた。

「えっ、あれ…みなさん…?」

「ゼツ、その腕を解いて今すぐなまえから離れろ」

「? 離れ…って、わぁっ!ぜ、ぜぜぜつさん!」

知らぬ背中の温かさはゼツさんが後ろから抱き締めていたようで、私の肩に顎をのせて何だか怖い皆さんをジト目で見ている。

「怖い顔ー。みんな嫌われちゃうよ?」

「誰がさせてんだよ、うん」

「お前もお前だ。黙って抱かれやがって」

「……。えっ?あれ、わ、私ですか?」

「ゼツぅ。俺朝って機嫌わりーんだわ。早くそこ退いた方がいーぜ」

「みんなが手を出すより僕がなまえと逃げる方が絶対早いよ」

「試してみるか?」

「…角都も狙ってるの?うわぁ、めんどい」

はぁ、と首元に顔を埋めて溜め息をつくゼツさん。
それにまたピリリと空気が痛くなる。

このなんだかよくわからない状況に、どうしても瞳が潤んでしまう。
せっかく皆さん元に戻れたのに、こんなの、こんなの駄目です、よ…。

「ちょ、ちょっと…皆さん落ち着きま──」

「なまえ!?」

なんとかこの場を静めなければと、策はなかったが一歩を踏み出せば、ぐらりと足がもつれ視界が歪んだ。
自分で理解するより先に皆さんの声を理解して、最後に見たのは、気持ち悪く反転する世界。





置いてきぼりにしないでって
(いつかの夢をみる。問うのはやめたのに。)