「ねぇ、なまえ遅くない?」

てん、とリビングのソファーに座りながら、サソリの部屋へ薬をもらいに行ったなまえが出ていった扉を凝視するゼツ。
少し離れたテーブルからぺったんぺったんと芸術作品を捏ねるデイダラが そうか? と特に興味もなさそうに返せば、ゼツの不機嫌な視線はゆらりとデイダラへ移る。

「ほーんと、デイダラってそれでもなまえのこと好きなの?」

「はぁ?なんだよ好きって」

「だって好きじゃん」

自分の大切なものを大切ではないかのような言われようにムッと顔を顰めたゼツは、やっと反応しこちらを向いたデイダラを睨む。
言葉の意味を理解してないわけではないデイダラは、怪訝そうにしているがその頬は少し赤く染まっていた。

「うるせぇな…。ゼツ、お前は重すぎるんだよ」

「だって好きだもん」

「わかってねーな。恋愛もクールにいくのが大人ってもんだぜ、うん」

「はー…。サソリに襲われてたらどうしよう」

「聞けよ」

「だってさ、あんな人形で無理かなとは思うけど…変な薬飲まされたりしてないかな…」

「………」

「サソリ手早いくせに今までなんもしてないから、きっと爆発するだろうし…。そしたらなまえは…」

「………」

「ああ、だめ。やっぱり無理。迎えいってくる」

「オイラもいく」

ゼツが立ち上がったすぐ後に、ガタタッと自身も荒らげに席を立つデイダラ。
ゼツは妄想が激しいし関心のなかったデイダラもそれに当てられるし本当にどうしようもない人たちですね、と、キッチンで洗い物をしながら事を眺めていた鬼鮫は小さく溜め息をつく。
すると、バン!と勢いよく部屋の扉が開いた。
それは意気込んでいるゼツとデイダラの仕業ではなく、外から開けられたもの。
そこには話の渦中であるサソリと、その腕に抱かれた小さな女の子。
くりくりの目をぱちぱちとさせ、扉の前で驚いている二人と蹴飛ばされて開いた扉を交互に見た。

「だんな、ドアはおててであけるんだよ?」

「お前抱いてるから開けらんねーんだよ。わかるだろ」

「! そっか、ごめんなさい。なまえ、おりる」

「いい。抱かれてろ」

自分のことをなまえと呼ぶ幼女は、サソリの言葉にしょんぼりと頭垂れたが、次の言葉にサソリの外套をきゅっと小さな手で強く握った。

その頭垂れる顔や、髪色、素直なところ、また、すぐには気づけなかったが明らかに大きすぎる外套を纏う幼女。
自分たちの中で、その幼女が誰かと重なる。
愛しい愛しい、特別な、あの少女と。

なにも言葉を発することのできなかった3人が、状況を飲み込むのは数十秒後。





言いたいことはたくさんあるけど、とりあえず離れて
(はなれるの?)
(抱かれてろって言ったろ)