「なまえに会うのも久しぶりね」

「そうだな。体調は良くなっていると言っていたが」

「デイダラったら、慌ててこんなもの買わせてきてなにがしたいのかしら」

がさり、と持ち上げた袋を見つめるのは、久方ぶりにアジトへと帰ってきた小南と、その横を歩くペインの二人。

昨日、メンバーからなまえが体調を崩したことを伝えられすぐさま帰路についていたのだが、アジトへつく少し前、デイダラから子供服を買ってきてほしいと急ぎの連絡が入った。

ちょうど繁華街手前だったこともあり購入は可能であったが、なぜそんなものが必要なのかとの問いと、なまえの体調を聞いたら答えも寄越さず慌ただしく連絡が途絶えた。

疑問が残ったままではあったが、自身のつくった組織に集まった、仮にもS級犯罪者があそこまで慌てている様子は普通ではない。
早く帰りたい気持ちを抑え、通過点にある繁華街で数点、子供用の服を購入した。
金銭を払うとき、 お子さんの服かい?夫婦でお買い物なんていいねぇ。 と店の主人に言われたときは二人ともぎこちなかったのはただの余談である。

見つめた袋の中身と、慌てていたメンバーの様子。
近づいてきた扉の先に、その答えはあるのだ。

「おい、一体なにが──」

「ねぇもうそこ降りてよー!いけません!めっ!だよ!」

「旦那ぁ、いい加減そいつ離したらどうだい?うん?」

「こいつが降りたくねぇって言ってんだから仕方ねぇだろ」

「そう教えたの貴方でしょう、サソリさん」

「…なに?どうしたのペイン」

開けた扉の前で固まるペインに、小南はひょこりとペインの後ろから部屋を覗き込む。

そこにはソファーに座るサソリと、その横で切実そうな顔をするゼツ。
サソリの前にデイダラとイタチか立っていて、なにやら騒がしく抗議をしているようだ。

覗いたところからはその一部しか見えないが、混じって聞こえる、組織には似つかわしくない高く小さな声。
自身の前から動かないペインの横へ無理矢理にだが立てば、目の前の光景は訳のわからなさが増す。

サソリの膝の上に、こちらを見上げる幼女の姿。
その声に、言い争っていた彼らは扉へと遅すぎる視線を向け、死角だった方からは鬼鮫が お帰りなさい、二人とも。 といろんな意味を含めた言葉を向けた。

「鬼鮫……これはどういうことだ」

「はぁ…。まぁとりあえず疲れたでしょう。お茶でもいかがですか?」

「いいえ。まずは答えなさい。その子はどうしたの」

疑問に思っているのも、それに答えようとしてはいるのも間違ってはいないのだが、それをすべて受け入れずに、小南は幼女を抱いているサソリの前へと歩みよる。
凄んで見える小南の、この変態どもと言いたげな視線にゼツもデイダラもイタチも無関係のふりをするが、その幼女を抱いているサソリだけは的の対象であり、本人も小南をうざがるように見上げている。

「帰ってこなくてよかったのによ」

「答えになっていないわ、サソリ。無断でアジトに連れ込んだのなら許されないわよ。それに、そんな小さな子を…」

「連れてきたのはお前らだろ。忘れられちまったな、お前」

見下ろしてくる小南のキツい瞳を反らし、自身の腕の中にいる子の頭をゆっくりと撫でるサソリ。
だが、言葉の意味がわからない幼女は頭にハテナを浮かべながらサソリを見上げている。
その隣にいたゼツはサソリの行為に喉まで抗議の言葉が出かかっていたが、サソリの態度に不満露でいつ開戦してもおかしくない状態の小南を前にして、言葉飲み込み様子を上目で見つめる。

そこに、お茶の入った二つの湯のみを、テーブルに置く鬼鮫。
一触即発の雰囲気の中、 リーダーは分かりましたか? と先ほどまで固まっていたペインへと言葉を投げ掛ければ、ペインは視線を幼女から鬼鮫へと移し、 なまえか。 とゆっくりと呟いた。

「なまえですって?」

その言葉にサソリを睨んでいた小南もペインへと視線を移さざるを得なくなり、小さく溜め息をついたペインはサソリを見た。

「お前の仕業か」

「人聞きわりーな。俺にこんな趣味はねぇよ」

「そうとも言えないがな」

「なんか言ったか?角都」

「耳が遠くなったようだな。歳だぞ、サソリ」

「お前に言われたくねぇんだよ」

「まったく…話が進みませんねぇ。どうやら、サソリさんの薬を誤飲してしまったようなんです」

「ロリコンさいてーだよね」

「ろいこん?」

「お前は黙ってろ」

各々の言葉が飛び交う中、やっと事情がわかったこと、また無駄になった危惧への脱力や飽きれから、ペインは片手で頭を押さえ大きな溜め息をつき、小南は先程よりキツい視線とオーラを辺りに撒き散らす。

殺伐としたその光景を見上げるくりくりの瞳は、雰囲気なんぞお構いないのか新しく登場した人物へ興味を持ち、それを原動力にサソリの腕から身を捩りそこを抜け出した。

「…一体どのくらいで戻る」

「2、3日ほどらしいです…」

「あなたたち…本当にクズね」

「なんでだよ!旦那だけだぞ!うん!」

「ねぇねぇ」

「おい、戻れなまえ」

自身の遥か上で言い合う大人たちを見上げ、なまえは小南の外套の裾をちょいちょいと引っ張る。
不思議なもので、たった一言、幼女の発する言葉に皆が注目し、自分の勝手が占領する雰囲気ががらりと変わって静かになる。
先程は形容しがたいほど嫌な表情をしていた小南も、裾を掴むなまえと目線を同じにし、穏やかに目の前の幼女に微笑んで見せた。

「おねえちゃん、おなまえは?わたしはね、なまえって、ゆーの」

「私は小南よ。よろしくね、なまえ」

「こなん…?」

「そう。隣にいるのはペイン」

「ぺいん」

「ふふ。すぐわかるなんていい子ね」

「? なまえ、いいこ?」

「ええ、とっても」

「! あのね、おねえちゃんとってもきれい。お花も、かわいいね」

ぱぁっと嬉しそうに花咲く笑顔。
自身と、髪にある花のコサージュを見つめるなまえの言葉に小南は僅かほど驚いたようだったが、目の前のほどけるように笑う幼女に再び同じように微笑み、その前にスッと両手を差し出した。

「プレゼント」

パラパラ、と、自身のコサージュから幾枚かの紙が宙を舞い、包まれた両手の中で花を咲かせる。
魔法のような光景に目をまんまるくさせたなまえは、差し出されたそのコサージュをキラキラと見つめ、プレゼント、との言葉に小さな手が花へと自然と動く。
しかし触れる直前、ぴたりと両手が止まると、戸惑ったような顔がきゅっと小南を見上げた。

「も、もらっていいの…?」

「ええ。お揃いは嫌かしら?」

子供ながらに相手をちゃんと見ているのか。
嬉しさや驚きからドキドキしているのが見てとれるなまえだが、だからこそ、高ぶって相手への配慮を欠かしてはならないと再度の確認をしたのだろう。
この齢で他人をどこまで見ているのかはわからないが、小南の問いにふるふると首を振るなまえの表情は、嬉しさをいっぱいに映したただの小さな女の子だ。

「こなん!ありがとう!」

勢いよくぎゅうっと抱きつくなまえに、柔らかく笑い受け止める小南。
小南となまえの笑顔が見れたペインもどことなしか嬉しそうで、大切な女性二人に咲く花を同じように柔らかく見つめていた。


そんな雰囲気から離れたダイニングチェアで、ただ一人。飛段は不機嫌そうに舌打ちをした。





綿菓子バンビーナ
(ふわふわあまい、だいこうぶつのおんなのこ)