「いただきまーすっ!」

「はいどうぞ、召し上がれ」

元気ななまえの声に続いて、メンバーも いただきます。 とまばらに手を合わせる。
美味しい匂いが満たす部屋で、さぁ、楽しみな夕食の始まりです。

「おい、よく冷まして食えよ」

「なまえかれーすき!」

「聞いてんのか」

本日のメニューは、小さくなったなまえのリクエスト!…ではなく。
鬼鮫の中のイメージで、子供の好きそうなメニューにランクインしているであろうカレーライスになった。

不慮の事故とはいえ、小さくなったなまえの期待に添えようと本人になにか食べたいものがあるか聞いたところ、大人の一番困る“なんでも”が返ってきたからこその鬼鮫の采配だったが、本人も喜んでいるようで鬼鮫もひと安心の様子。

スプーンにカレーをちょっとだけ乗せ、サソリに言われたようにふぅふぅと息をかける。
皆が火傷するなよと心配する中、一口含んだなまえはご満悦。
幸せそうななまえに一瞬は顔を綻ばせるが、その上に見えるやつの顔には内心モヤモヤを出さないようにするのに精一杯だろう。

先程ペインに怒られてから殺伐とした空気にはならないが、内心今の状況に大半のメンバーは負のオーラを腹一杯に溜めている。
だが、口には出せないのはペインの件もあるが、なまえ自身の要望でもあったから仕方がないのかもしれない。
…遠回しに聞くメンバーもいなくはないが。

「ねぇなまえ〜、そこ座り心地悪くないの?」

「? わるくないよ?」

「……そう」

なまえが今座っている場所は、椅子ではなくサソリの膝の上。
椅子にサソリが座り、その上になまえが座るという構図だ。
もちろん隣には角都と、反対隣にはイタチ。
なぜ食事を取らないサソリが食事の席にいて、なおかつなまえを乗せているのか。

というのも、ここでもなまえの不思議パワーなのか、サソリが食事をしないこと、傀儡とまでは言葉にしなかったが理由もちゃんとわかっているようなことを食事前に口にしたからだ。
食事はしないにしても、一緒に食卓を囲みたい、とのなまえの要望と、それプラス、大人用の椅子に座っては自分がテーブルに届かず食事が出来ないというのも相まっての今。

サソリの上に座ってちょうどよい高さで食事をとるなまえと、引き離されていた間のイライラが消えていくサソリ。
どちらも(サソリは内心)満足そうにしているのが目につく。
…というのは、真正面に座っている飛段の言いぐさか。

なまえが小さくなってからずっと不機嫌な彼だが、理由は一体なんなのか。
相方である角都や、いつも不機嫌なときより更に不機嫌だと感じ取っているデイダラがなんなんだと声をかけたが、明確な答えは返ってこなかった。
目の前で起こる仲良しこよし(?)にカレーを食べながらも苛つきは募っていくようで、なまえはそんな飛段と飛段の食べているカレーを交互に見て不思議そうな顔をした。

「ねー、ひだん」

「………」

「? ひだんー?」

「………」

「…おい、シカトすんなよ。うん」

かかった声と、ぱちりと合った目。
しかしそれを瞬時にシャットアウトし、見上げる少女へ無視を決め込む飛段。
見かねたデイダラが続いて声をかけるが、その返事は小さななまえには理解できないからいいであろうもので。

「あぁ?うっぜぇやつに構いたくなんかねーだろよ」

「おい飛段、その言い方はなんだ」

「うるせーよ。たまにしか帰ってこねぇやつに説教されたくねぇ」

「ウルサイノハオ前ダ、飛段」

「ほんと。さっきからなにそんなイラついてるわけ?」

「なにか気に障ることをなまえがしたか?」

堰を切ったように言葉が溢れてくる飛段とメンバー。
先程からの飛段の態度を感じつつも抑えてきた面々は、ヒートアップする飛段につられて刺激されていたものが湧き出てきている。

冷静というか、感化されずにいるペインと鬼鮫と角都とサソリ。注意されてそれに従っている小南。
どうしてこうなるのかと苦労の絶えないペインは帰ってきて何度目かの溜め息をつくと、そこに再び元凶の名を呼ぶ声がスッと入る。

「ねぇひだん」

「んだようるせぇなっ!」

「ひだんは、かれーにおやさいないの?」

「はっ?」

「おやさい、きらい?」

争う今、どうにも場違いな言葉に一瞬静まる若者たち。
先程は無視を決め込んだ飛段であったが、流れと怒り任せなのかここでは返事をしてしまった。

サソリの足の上で立ち上がるなまえは、身を乗りだし飛段のカレー皿を不思議そうに見ている。
そこにはご飯と、具は肉のみのカレールウ。
飛段の野菜嫌いはメンバーも皆知っているし、大人のなまえもあのサラダ事件で知っている。
しかし今子供に戻ったなまえはそんなこと知りもしないわけで、他の皿にはあるにんじんやらじゃがいもやらがないカレーと、興奮したままの飛段をぱちくりと見上げている。

「なまえ、飛段は野菜を食えない馬鹿なんだ」

((前にも聞いたな…))

「馬鹿っていうな角都!」

「! ひだん、おやさいきらいなの?」

「うるせぇな!嫌いでわりーかよ!」

ドカリと椅子に座り直しふんぞり返る飛段を前にも見たが、今回もまったくもって威張れることではない。
するとなまえはそんな飛段と自分のカレー皿を見て、一口、不安定ながらにんじんをスプーンに乗せて飛段へ差し出した。

「なんだよ」

「あーんしてー」

「ぜってぇ食わねぇ。近づけんな」

「すききらいはいけないんだよ!」

「お前こないだもうしねぇって言ったろうが!」

「なにへんなこといってるの!あーんしなさい!」

「するか!」

「ひだん!」

「うぜぇんだよお前!!」

ぺしん!

一連の流れでもう既にデジャブっている。

この流れをもちろん心配していたメンバーの予感は悪くも的中。
飛段の手は小さななまえの手を払いのけ、その反動でスプーンもテーブルへと落ちた。

一瞬にして、静まり返る部屋。
以前とまったく一緒だが、今回は少しだけ事情が違う。
払いのけたのは、小さな、子供の手。
本人はそこまで力を込めていなくても、じんわりと赤みを帯びてきた手の甲は、今のなまえとの力の差を何倍にも飛段へと自覚させる。

「飛段!いい加減にしろ!うん!」

「なまえ、手は大丈夫か?」

「学習しろよ、このクソが」

「飛段…後で覚えておきなさい」

責めの一手をまたも受ける飛段だが、今回はやはり本人もばつが悪いのかメンバーからの声も遠くからしか届いていないようで。
叩いてしまった自身の手のひらを見つめたまま動けずにいると、

ぺちん!

「「「!?」」」

小さく、乾いた音が室内に響いた。

身を乗りだしたままのなまえが、飛段の頬にカウンター。
もちろん痛いほどの力はなまえには出せないが、叩かれた飛段は頬を押さえ呆然。
キッと飛段を見上げ、睨むなまえの目には涙がいっぱいに溜まっている。

「ひだんのおこりんぼ!」

頬を膨らまし、涙を溢さないように叫んだなまえに、飛段はハッと我にかえる。

目の前の、小さくなったとはいえ出会って初めて怒りを露にする子や、自身の勝手な苛立ちからきた行い。
様々な感情が沸き起こるが、しかしそれは叩かれた衝撃と咀嚼できぬ苛立ち、心咎めに飲み込まれ、飛段は我慢出来ずもう一度、暴言を吐いて乱暴に部屋を出て行った。





不器用なんてただの言い訳
(涙を拭う両手のひらとまんまる頬)