「ふあ…あ」

もうすっかり日が昇り、天気も穏やかな朝。
リビングへの道をのろのろと歩く銀髪の男、飛段。
寝起きだからか、いつものときより適当に髪を後ろに流し、未だ眠気覚めやらぬ様子。

そんな彼の前方には、髷がチャームポイントのデイダラ。
こちらも寝起きだからか、髪は後ろで緩く束ねているだけ。
飛段は軽くデイダラに声をかけると、デイダラも軽くそれに返す。

「なあそーいやさ、なまえなにしてると思う?」

「なまえ?誰だそりゃ」

「昨日来た女いただろ!記憶力ねーなお前」

昨日のことだぞ と、言いたそうなデイダラを余所に、飛段は軽く欠伸をした。
覚醒しない頭になにを言っても無駄なようだ。

そんなこんなでリビング前についたデイダラは、うつらうつらしている飛段に シャキンとしろよ。 と半ば呆れ気味に告げ、扉を開く。



「なまえ、フレークないー」

「フレークですか?今持ってきます!」

「茶を用意しろ」

「はい!熱めでいいですか?角都さん」

「「………」」

扉を開けた寝起き2人の前には、どたばたという表現がぴったりの光景が広がっていた。

ある1名を除けばゆったりとした食卓風景なのだが、その1名であるなまえはあっちに行ったりこっちに行ったりと忙しなく動いている。

「旦那、アイツなにやってんだ?」

ぽつり、と、軽くソファーに身を預け新聞を読んでいるサソリの傍に寄ってきたデイダラ。
その視線はゼツにフレークを渡しているなまえに向けられており、サソリはそれに 見りゃわかんだろ。雑用だ。 と簡潔に返した。

「あっ、デイダラさんに飛段さん。おはようございます!」

朝ごはん何にしますか? と角都のお茶を用意しながら聞くなまえに、飛段は肉と答え、デイダラはパンでいいと答える。
当然肉などないので、それを聞いていた鬼鮫は パンでいいですね。 と飛段を軽くあしらった。

「良くねえよ!肉ったら肉!」

「飛段さん、朝からお肉は如何かと…」

「うるせえ!てめーに言ってんじゃねーよ!」

「ひっ!ごごご、ごめんなさい!」

角都にお茶を渡しに来たなまえに、朝っぱらから突っかかる飛段。

その喧嘩口調に、隣に座っていた角都は無言で相方に一撃食らわすと、まだ湯気の出るお茶を啜った。

「わわ!大丈夫ですか飛段さん?」

「だからうるせぇって!ケチつけたり心配したり何なんだよお前っ」

意味わかんねえ! と殴られた箇所を擦る飛段に、なまえはまたびくつきながら謝罪。
お詫びというわけではないが、何か飲み物を用意しますとなまえは注文を受けた。

「サソリさんは何かいりますか?」

早めにダイニングに来たにも関わらず未だ何も食していないサソリに、なまえは遠めに聞いてみた。

「いらねえ」

「でもあとでお腹すいちゃいますよ?」

「すかねーから安心しろ」

「ていうか、旦那は食いもん必要ないんだぞ、うん」

「?」

サクッといい具合に焼けたトーストをかじるデイダラは、理解がイマイチ出来ていないなまえを見て言葉を続ける。

「なまえは、傀儡って知ってるかい?」

「クグツ?」

「おう。簡単に言やあ人形だな、うん。旦那は永久の美とやらを追い求めて自分まで傀儡にしたんだぞ」

だから寿命とかないし、食べ物も必要ない。 と、本当に普通に述べるデイダラだが、それを聞いたなまえの表情は僅かに曇る。

それもそうだ。
忍でもなければ、身近にそういう類いの人間がいたわけでもない、“ただの人間”であるなまえにとって、どんな理由があろうと自分さえ人形にしてしまうサソリの考えが理解出来ない。

それはなまえに関わらず一般の忍でも普通のことだが、ここはS級犯罪者の集まり。
すでに認識している事柄だとしても、顔色ひとつ変えずに、そして、それがおかしなことではないといっているようなメンバーの態度に、なまえは、こんなことを思われるのは大きなお世話だろうと、それを頭の隅に追いやってはみたが、じわじわと侵食してくる感情を消すことは出来なかった。






知らなければ綺麗なままで
(でも、知らないままでなんて、きっといけない)