「うーん…」

暁に来てから2日目のお昼過ぎ。
ちょうど先程昼食が終了し、閑散としたリビングのソファーに膝を抱えながらふらふらしている少女、なまえ。
昼食はまた鬼鮫が任務に行ってしまったためなまえが手料理を披露。好評だったのに気を良くしたり、少し賑やかすぎる食事を過ごしたのだが、今はなぜかこの様子。
ごろりとソファーに転がったのと同時に、がちゃりと扉の開く音。

「デイダラさん?」

それに反応し、ひょこりと起き上がるなまえの目には、ゆらりと揺れる髷が映った。

「うん?そんなとこでなにやってんだ?」

「あっ…いや…、何を、というわけではないんです、が…」

なんて。中々言い出さないなまえに、 聞いてやるからちゃんと言え。 と促すデイダラ。
なまえはそんなデイダラの顔をちらりと見上げ、おずおずと口を開いた。

「えっと…、ですね」











「ほら、早く行くぞ」

「わわっ、待ってください!」

急かされながらも外套に袖を通すなまえは、デイダラ待っているところまで財布片手にパタパタと小走り。

「お待たせしました!」

「ん。場所はオイラに任せな。どうせわかんねーだろ」

「はいっ」

先程デイダラに話したことは、どうやら買い物に出かけたいということだったらしい。
だが地理もなにも分からず、ましてどうやってアジトから出るのかも分からない。
なので誰かに連れていってもらいたかったのだとなまえは語った。

「かっいものっ。なっに買おうっ」

久々の買い物とあって、うきうきわくわくしているなまえの横で、デイダラは粘土で鳥を作り、そこらへんにポイっと投げる。
すると人が乗れるくらいに大きくなったそれ。
なまえは驚きと好奇心に満ち溢れたが、デイダラの 乗れ。 という一言でその表情は一変。冷や汗が伝っていた。

「あの…これに乗ってどうするんですか?」

「これで街に向かうに決まってんだろ」

「え…。まさかこれ……飛びます?」

「……鳥は飛ぶ、常識だぞ」

デイダラは、なに言ってんだコイツ、みたいな目をなまえ向けるが、なまえは血の気の引いた表情で顔と手をぶんぶんと横に振りだした。

「むりむり!無理ですよお!嫌です絶対に乗りませんから!」

断固拒否!と訴えるなまえに、デイダラは眉間の皺を増やした。

「なんなんだよ。せっかく出てきたのに今さら拒否はなしだぜ、うん」

おら、来い。 と、ぐいぐいなまえを鳥に引っ張っていくデイダラに、なまえは全体重をかけしゃがみこみ、さらに拒否。

「嫌です嫌ですやだやだやだあ!飛んでなんか行きたくないです怖いし落ちたら死んじゃいますよおお!」

わあああんこわいー! と、びーびー喚くなまえに、デイダラは舌打ちをし、埒が明かないと思ったのかなまえを無理矢理抱え込み、ひょいと鳥に飛び乗る。

「ちょ!勝手に乗せな──って ひぎゃあああ!とっ飛んでうわわわわ!」

いきなり乗せられたと思ったらこれまたいきなり飛び始めた鳥に、なまえは先程より酷く泣き叫びながらデイダラに抗議。
デイダラはそんななまえの耳元に唇を寄せたかと思うと、ぼそりと低く一言。

「これ以上騒いだら、まじで落とすぞ?うん」

かちーん

「や、ややややで、す。ごめ…ごめんな、さい」

きっと冗談ではないその発言に、なまえはもう固まるしかない。

落とされるのも嫌だし、落ちるのも嫌。
結果同じことだとしても、その発言は酷く効果があったようだ。

「…っ。で、デイダラ、さ…ん」

だが、その発言に効果があろうが恐怖が消えるわけではなく、デイダラの外套を軽く掴むなまえ。
それを見たデイダラは、なまえの外套をぐいっと引っ張り、自分の懐へと寄せた。

「…っ」

「着いたら教えてやるから、しばらくそうしてろ。うん」

急に引き寄せられたことに声を上げそうになったなまえだが、回りを見ないようにするためかデイダラの胸に顔を埋めさせられ、それは未遂に終わる。

飛んでいるせいで風の音や圧は多少生じていたが、触れている場所から微かに伝わる早めの心音に、デイダラが小さく口角を上げたことなど、なまえは知る由もない。





にやにやほっぺ
(優越感に満たされた空の上)