「帰ったぞー、うん」
リビングに入るや否や、手に持っていた荷物をその場に落とし、背負っているなまえをソファーに座っているゼツに預けたデイダラ。
ゼツは、は?と言いたげな顔をデイダラに向け、もう1人、任務から帰りリビングにいたイタチは帰ってきた2人をみて不思議そうな顔をした。
「どこか出掛けていたのか?」
「おう。こいつが買い物したいっつーからちょいとな」
真っ先に冷蔵庫に向かい飲み物を取りに行ったデイダラに、顔にかかったなまえの髪を退けたゼツが、怪訝な表情で聞いてきた。
「なまえ泣いたの?」
ゼツの腕の中で未だに気を失っているなまえの頬や目尻は、泣いたせいで若干赤くなっている。
「あー。うるさくて叩いたら泣いた」
余程喉が渇いていたのか、飲み物を勢いよく飲んでいるデイダラに、2人から間髪いれずに非難の声が飛ぶ。
「女叩クナヨ」
「暴力はいけないよね」
「ナンセンスだな」
「なんでだよ!オイラだって大変だったんだぞ!うん!」
どうして自分が責められなきゃならないんだ、と、腑に落ちないデイダラだが、そこに元凶がまた1人、扉を開けて入ってくる。
「あ?なんだよこれ。散らかりすぎて邪魔だっつーの」
入り口に散乱しているなまえの荷物を蹴飛ばす飛段は、あまり機嫌が良いわけではないようで。その瞳は、ゼツに抱かれている持ち主を捕らえたかと思うと、ずかずかとそちらに歩み寄り、その頭目掛けて勢いよく手を振りかざした。
「──っ!」
「飛段!」
その行動にゼツが声を上げたが、飛段はお構いなし。
今の痛みで目が薄らと開いたなまえは、ぼやける視界で飛段を捕らえた。
べしっ!
「──っ!?」
「おい飛段!」
次に声を上げたのはデイダラ。
再びなまえを叩いた飛段は、ふるふると震えはじめたなまえに、 腹減ったからなんか作れ! と要求。
「飛段、テメェ人ノ膝ノ上デ暴レンナ」
「知るか。俺はこいつに用があんだよ」
聞いてんのか? と、反応のないなまえを3度に渡って叩いたのがいけなかった。
覚醒していないうちはまだ良かったが、今の一撃で完璧になまえの涙腺は崩壊。デイダラのときの悲劇が再び。
「ひっ、うわああああ!ひだっ飛段さんが!殴ったあうあああ!」
キーン。
耳を塞いでしまうレベルの声に、バタバタわらわらとアジト内にいた残り数名のメンバーもリビングへと集合。
「一体何事ですか!?」
「うるっせぇんだよ!傀儡のメンテナンス失敗したじゃねえか!」
「おい…。金をどこまで数えたかわからなくなっただろう」
理由はいちゃもんをつけにきたのか本当に心配して来たのかは定かではないが、この惨事はなんだとサソリはデイダラに詰め寄る。
「飛段が殴ったら泣いたんだ!」
「俺のせいかよ!もとはといえば寝てるこいつがいけねーんだろ!」
「わあああん!ひだっ、飛段さんに殴られたああ!飛段さんのばかあああ!」
「あんだと!」
べしっ!
「ひいぎゃあああ!!またっ!またなぐっ、殴ったあああ!うわあああ!」
どう見ても火に油を注ぐ行為に、そこにいた全員が飛段に殺意を覚えた。
「ふう…。なまえ、」
あれだけ叩かれればヒートアップもするだろう。
勢いを増したなまえの顔を両手で固定し、イタチは動術を発動。
ぴたりと声が治まり、なまえは再びゼツの腕の中へ倒れこむ。
「ゼツ、抱えておけよ」
一番近くにいたゼツが一番被害が甚大だったが、ゼツは もう絶対飛段には触れさせないから安心して。 となまえの目尻を優しく指で撫でた。
「…さて、飛段」
「あ?なんだよ?」
「すう…」
数分後、安らかに眠るなまえの横で、ぼろぼろになった飛段がいたことは言うまでもないだろう。
女の涙には毒と媚薬が混ざっている
(なまえを泣かすべからず、という暗黙のルールの出来上がり!)