会いたかったような、会いたくなかったような。
その表現はとても曖昧で、でもちゃんと追及すれば答えは出るのだ。
歩いてくる集団の中にその2つは混じっていた。
借りたパーカーを返すために会いたかった子も、もう二度と顔さえ見たくなかった子たちも、どちらも一辺にきて。
でもまさか、というよりなんで、という考えにとられていると、隣でミサキが笑った。
その3人と、他2人の子達を見て、桃山なんちゃらだと。
服装は私服だが、傍らに大きなエナメルバッグが見えるし、ここに来るということは目的はほぼ限られている。
そこで、ミサキの言っていた用事が頭の中で繋がった。
ああ、世界とは残酷な上に狭いものなのだ。
「ミサキさん!こんにちは!」
「よく来たねみんな。今日暑いけどいける?」
「もちろん!バテてられません!」
声の大きな少年と、イントネーションからして関西のように感じた少女は、笑うミサキに笑顔を返す。
それを見ていたわたしに刺さるのは、痛い視線が3つほど。
「よう、変質者」
「うるさい」
その3つのうちの嫌な2つの視線。
最初に口を開いたのは、面白おかしくわたしを笑っていたやつ。
根に持つとかそういうのじゃないけど、謝りもできなかったからくせによく話しかけてこれるなと睨んでみたら、次はボールをぶつけた張本人が、嫌味だろうか。 世界は案外狭いものですね。 と笑ってみせた。
「え、なに?竜時くんたち知り合いなん?この子」
「まあ色々ありましてね」
「つーかなんでこんなとこいんだよお前」
ふう、と息をつきたそうに聞いてくるそいつに、そんなのこっちの台詞だ、と思ったが、会ったらまたなんかイライラしてきたしシカトしてそっぽを向いたら、 なんだよ。 と小さな不機嫌そうな声が落ちてきた。
なんだよってなんだよ。自業自得なのに、と様子を見てやろうと思ったら、急に両手を力強く握られる感触。
びっくりしてずれかけた視線が戻り、映ったのは、先程ボールをぶつけた子に話しかけてた少女の、おっきな瞳。
「え…あの」
しゃがまれて同じ目線、急に両手を握られる、それだけでもよくわからないのに、なぜその子の瞳がキラキラしてるのかもよくわからない。
一体なんだと声をかけようとしたら、その子の口から漏れたのは、 その服、 という言葉。
「もしかして、ダンデライオン所属の子!?サッカーできるん!?」
わあっ、とその子のまわりが一瞬にして輝いて見えたのは、きっと幻覚じゃない。
キラキラオーラを発して嬉しそうにわたしを見てくる少女。
いきなりのこととその迫力にすぐ返事が出来ずにいたら、声の大きな少年がまさかという顔をして ミサキさんのお子さんですか!? とまた大きな声で聞いた。
「ちょっと!わたし子供じゃない!」
「!!」
「「え?」」
なんでそうなるんあほか! ってつっこんでる少女と、 いやーてっきり。 と謝っていた少年が、わたしのその一言で仲良くハモって意味がわからなそうにわたしを見る。
と、びっくりしたミサキが慌てて あたしのトモダチ! と、わたしを自分の方に引き寄せるもんだから、ちょっといろんなことにむっとした。
ハテナを浮かべてなにか質問してる少年少女と、それに なんでもないの! と頭上で答えるミサキ。
ふん、と余所をみたら、以前の赤とぱっちり目が合った。
ああ、そうだ。会いたかった、その色。
「虎太…だっけ?」
するり、と、質疑応答しているミサキから抜け出して、見下ろす彼にずっと持っていた紙袋を渡す。
警戒しているのかわかっていないのか、無言でそれを睨む彼に、 この間のパーカー。 と、付け加える。
「ありがとう。助かったよ。本当は、公園に返しにいこうと思ってたんだけど…」
ちょうど良かった。 と、そ、と受け取られたそれに、 本当は、なにか付けようと思ったけれど知らない人間からの物は受け取らないと思って。 と、補足する。気持ちのお礼もできないような大人じゃあないのよ。
「じゃ。わたし帰るからね、ミサキ」
変わらず無口な彼と、困ってるミサキに。
挨拶して照りつける黒のコンクリートに向かおうとすれば、 えっ、 と焦ったミサキが慌てて声をかけてくる。
「ちょちょちょ、待ちなよ。一人じゃ帰れないよあんた」
「帰れる」
「無理だって。いい加減自分が方向音痴なの認めなよ」
「帰れるから」
「やめときなって。あとで駅まで送ってあげるから、待ってなよ」
「………」
進み出す一歩を、掴まれた腕が残って阻止される。
ミサキを不満全快で見上げれば、どうにも帰してくれなさそうな顔で。
「………わかったから、手離して」
今回も折れないとだめなのか。
はあ、と溜め息混じりに仕方なしにこちらも力を緩めれば、比例して掴まれていた腕も解かれていった。
安心したようなミサキの態度も納得いかない。
「なにがそんなに駄目なんだ…」
・
・
・
「………」
「みんなラスト3分!がんばってこー!!」
「翔くん声大きすぎや!」
賑やかに、目の前で繰り広げられる少年少女と、ミサキのいるチームとの試合。
けどミサキは出てなくて、なんか観察というか指示というか、指導者っぽく練習?試合?に参加してる。
熱中症対策とか言われてタオル被せられ、この暑い中試合を見せられてるわたしに意味はあるのか。
一際通る少年の声が残り時間を告げたあと、その通りの時間に終了の笛が鳴った。
「はー。やっぱりローサ強いー」
「そう?結構点差詰められるようになってきててびっくりしたよ」
すとん、と肩で息をしながらわたしの隣に腰を下ろす少年に、本当にそう思ってるのかなあ。ミサキはそう言った。
だってミサキ参加してないんだから。してたらもっと点差開いててびっくりなんてきっとしない。
「どう?彼らのサッカー」
「え…。いや…知らないけど」
ぼうっとしていたけど、戻ってきた彼らはなんだかキラキラしてるなあってまたぼうっと思っていたら、目の前からミサキの声が降ってきた。
一瞬呆けたけど、別に言葉の意味がわからなったわけではない。
どうと言われても、真剣に見ていたわけではないし、ただ眺めていただけ。だから、感想を求められたって分からない。
「ねえねえ、そういえば、名前なんて言うの?サッカーできる?やってみる?」
わたしの返答に分かっていたけどと内心思ってるようなミサキは、苦笑いを浮かべて少し離れた三つ子の方へ向かった。
それに次いで、隣から試合後とは思えない元気のよさで話しかけてくる少年と混ざってきた関西の少女。
座高もそりゃあ違うけど、少年もそこまで背高くないのに差は出るんだなあと思いながらそっちにも答える。
「なまえ。できないしやらない。」
「そっか、なまえちゃんかあ。自己紹介遅れちゃったけどよろしくね?僕は太田翔!こっちはエリカちゃん」
「高遠エリカやで。よろしゅうななまえちゃん!サッカー嫌いやなかったら一緒にやってみぃひん?」
試合だから、じゃないのかな。
終わったあとでもキラキラして見える。
解りかねない現象を感じていたら、 あっちにいるのはね、 って、三つ子たちを紹介する少年……えっと、翔、に、 竜持くんたち知り合いらしいで? とエリカ。
別に知り合いじゃないんだけど…と、“竜持”と紹介されたボールぶつけたやつをちらりと見たら、こっちの視線に気づいたのか、ふっと軽く笑ってみせた。
(なんなんだ…)
「ね、じゃあなまえちゃんは何年生なの?僕たち6年だけど…年下だもんね?」
「は?」
さっき同様悪気はない。そんな感じみたいだけど、少年の言葉にさっきの感情が舞い戻ってきた。
はっとして動き始めていたミサキにそのときのわたしは気づかず、そのまま言葉を続ければ、
「さっきも言ったけど、こんな姿してるけどわたし大人だから。君たちと一緒にしな」
いで。
最後の2文字は、間に合ったと思っているであろうミサキの手で蓋をされ、半ば飲み込まされた。
浮いた感覚と、遠ざかる彼ら。離してもらえたときには、自販機近くの、人気のない、場所。
ぜーはーしてるミサキを見つめていたら、困ったようにというか、呆れているというか、なにか言いたそうで。というかすぐさま言葉が飛んできた。
「バレたらどうすん、の…!」
ああ、やっぱり言いたいことはそうだったらしい。
日陰に入ってすこし汗が引いたわたしだけど、ミサキはさっきよりも汗かいてる。走ったから、なのかなんなのか。
「…別にどうもしないけど。わたし子供じゃないし」
「そうだけどさ…っ、はあ、なんかあったとき危ないじゃん」
「………」
「信じてもらえないだろうし、混乱、させるよ。」
息を少しずつ整えるミサキの目。
じいっ、と見つめ合わせること数秒。
なんか…がつがつ来るようになった気がするのは気のせい?
例えるなら隔たりがなくなった感じ。
どうせ、嫌だって言ってもだめなんだろうなあ。
「………わかった」
はあ、と息をつく。
吸った空気は熱くて胸が変な感じになった。
でもまあ…本人わかってないだろうけど、小さく笑うミサキに免じて、三度目だけど。言うこと聞いておくか。
ねえこれは何人だけのヒミツ?
(このとき誰かに聞かれてるなんて、思いもしなかったけど)