バレーなんて、まったくわからない。

勉強は好きだし成績も良く、両親と相談して少し離れたところだけど、将来のことを考えて、名門、白鳥沢高等学園へ入学した。

入学して知ったことは、男子バレーボール部がとても強いらしいということ。
数ある部活の中で一際注目を浴びているらしく、他校から“王者”なんて呼ばれるほどらしい。
…人から聞いた話だから、全部“らしい”がついちゃうけど。

あまりスポーツというものが得意でもなければ、興味もない私。
やらないから興味も湧かないのかもしれないけど、きっとそんな私は王者に関わることもなにもないだろうなと思っていた。

けれど、じゃあなぜ、そんな私が、バレー部のマネージャーになったのか。



入学して2週間ほど経ったとき。
窓から見える桜ももう満開を過ぎ、散る花に名残惜しさを感じていた渡り廊下で、声をかけられた。

「ねぇ、君!」

と。
見ず知らずの人に声をかけられるわけはないと思い周りを見渡してみたが、そこには私と声をかけたその人しかおらず、ならば必然的に呼ばれたのは私ということになる。

赤い逆立った髪に、おっきな目。
不思議な雰囲気を感じるその人。
え、なになんかした? と、記憶にないその人を思い出そうとすれば、その人はぐんぐん近づいてきて、私の両手をぎゅっと強く握り、

「男子バレー部のマネージャーになってくんない!?」

と超特急の勧誘をしてきた。
訳がわからず固まる私に、 ダイジョーブ!俺たち強いよ! なんて笑い、 はい決まり! なんて職員室で入部届けを書かされて、 じゃあまた明日ねなまえちゃん! なんて、残りの桜を散らしてしまうんじゃないかと思う嵐のように去っていった。
なんての多用になるが、それくらい訳がわからず進んだのだ。
断るタイミングくらいあっただろうと思われるだろうが、嵐です。

それに、断れなかったのには他にも理由があった。
まずは彼が先輩のようだったことと、連れてこられた職員室で会った先生。
監督らしく、 この子! と端的に紹介された私を、その人は座ったまま見上げた。

見た目は物静かなおじいちゃんという印象を受けたが、睨む、その瞳のせいで、言葉ひとつ、なにも言えなくなった。
それなりに今まで怒られて生きてきたが、ぞくりと背中に伝う怖さは初めてだった。
言葉はなにもないのに。これが威厳、というやつなのだろう。

本当は採るつもりねぇけど仕方ねぇな。 と、不本意だと面と向かって言われたが、私だって入りますなんて一言も言っていない。
言った言葉なんて、え、あ、くらいだ。

けれど、恐怖に勝るものが私の中になかった。
差し出された用紙に、ペンを走らせたのは自分自身。

平凡に終わると思っていた私の高校生活が幕を閉じた瞬間だった。











ピピピピピ…!

「ふぁ…朝かぁ」

ぱちん、と、鳴り響く目覚まし時計を止め、重くだるい体を起き上がらせる。

夢を見ていた。昨日の夢。
あまりに衝撃的すぎて脳に焼き付いたのだろうか。全然休んだ気にならない。

「おはよう。今日からマネージャーでしょ?夕飯には帰るの?」

やっと慣れてきた制服に袖を通しダイニングに降りれば、良い感じに焼けたトーストを持ってきてくれた母。
娘がなにか新しいことを始めるのが嬉しいのが伝わるが、わからないですね、はい。なにも。
とりあえずは食べるつもりでいることを伝え、さっくりとパンをかじる。

テレビでは、朝の番組恒例、“本日の運勢”なんて占いコーナーがやっていて、信憑性もわからないこの占いを信じる人はいるのだろうかと甘めの珈琲を啜る。
でもまぁなんと、本日の栄えある一位は、私の誕生月、8月のようで。

『運命の人と急接近!出会いを大切にね!』

いやないなぁ。8月がみんなそうなったら逆に大事だろう、と、明るいナレーションのお姉さんの声を片耳に聞きながら、あくびをした。
きっと家を出る頃には忘れてる。占いなんてそんなものだ。

ああ、やだ。やーだ。行きたくない。





春うらら、恋して乙女
(だってバレーなんて、まったくわからないもん)