「なまえちゃーん!」
「ひっ!」
授業終了の鐘がなってすぐ、友達が一緒に帰ろうといつものように誘ってくれたけど、これからは無理そうだった。
男子バレーボール部のマネージャーになったことを伝えると、驚くと同時に心配もしてきて、強豪だからだろうか?と首を傾げていたら、 何かあったら言ってね! と肩を叩かれて、そして冒頭。
昨日の赤髪さんが来て、その声で私の名前が教室内外に行き渡った。
私の頭の上のハテナは吹っ飛んだが、 え?あいつなんか三年に呼ばれてんぞ。 とガヤガヤし始めたみんなの頭にハテナがたくさん浮かんでいる。
いってらっしゃいと送り出してくれた友達二人にぎこちない笑顔しか返せなかった。
「あの…」
「んー?なぁにぃ?」
ふんふふんと上機嫌そうな赤髪さんの後ろをついて歩く。
とりあえず着替えておいでよ! と更衣室でジャージに着替えさせられ、きっと今は体育館に向かっている。
この学園は敷地もおっきくて、体育館も何個もあるみたいで、いつも体育の授業をするところは過ぎ去った。
ここじゃないのだろうか。
「すみません、私、マネージャーをしたことも、ましてやバレーボールのルールも知らないのですが…」
強豪と呼ばれたバレー部に、こんなド素人が入っていったら迷惑に決まっている。
使えないやつだと認識されてマネージャーを辞めさせられることになっても構わないのだが、入部届けを書いてしまった以上、やり遂げたい気持ちも出てきていた。
昨日から募っていた不安が行く足を重くする。
すると赤髪さんは足を止め、ぐるりとこちらへ振り返ると出会ったとき同様、両手をぎゅーっと力強く握って、私の不安を消し去るように眩しく笑った。
「ダイジョーブだよんっ。君がいてくれるだけで俺らはもっと強くなれるから!」
「!」
昨日は怖く感じた笑顔が、今はとても可愛く感じた。
離した片手でぽすぽすと頭を撫でてくれ、少し頬っぺたが熱くなった。
不思議な人だけど、優しい人なんだろう。
魔法のように先程の不安が消え、不思議と足取りが軽くなった。
さあ、もうすぐ着くよ。 なんて、少し早足に、そのまま手を引く赤髪さん。
足早とは言ったが私の歩幅からしたら小走りだ。少し息があがる。
手を繋いだまま歩く、楽しそうなこの人に、ずっと聞きたかったことを、今、聞いてもいいだろうか。
「あ、あの!」
「はいはーい。お次はなにかなぁ〜?」
「お名前っ、教えてもらっても良いですか?」
見上げる綺麗な色した髪の名で、いつまでも呼ぶわけにいかない。
今更って思われるかなとは思ったが、赤髪さんはにこにこしたまま教えてくれた。
「天童覚だよん。よろしくねー」
「…!天童先輩!」
「もう!俺となまえちゃんの仲なんだから名前で呼んでいーよっ」
「さ、覚先輩?」
「先輩いらなーい!覚でいいよ!」
「せめてさんはつけます…!」
一体、私と覚さんの仲とはなんだろう。
こんなフレンドリーすぎる人と接するのは初めてで、ちょっと混乱したけど、笑う覚さんになんだかこっちも嬉しくなってきたから、きっとそういう仲。ってことにしておく。
「ほいっ、ついたよ。俺らの体育館!」
引かれた手が最後に小さく角を曲がり、覚さんはきゅっと止まった。
私の知ってる体育館から二つ離れた、入り口にバレー部専用と書かれている体育館。
ば、バレー部専用?そんなにすごいの?
少し息の切れている私の手を離し、覚さんはガラガラと重ための扉を開ける。
映った向こう側の世界は私には新鮮で、でもすぐに目に留まった。
ボールを打とうと飛ぶ彼。
バレーのことなんてわからないけど、思った。綺麗だと。
ぶわっと込み上げたのは、格好いいという気持ち。
生まれて初めて、感動で鳥肌が立った。
おててつないでつれてっちゃうよ
(虜にする自信があるから安心してね)