惹き付けられた、というのかな。
初めての感覚。
スポーツなんて興味がなかったし、細かなところなんてわからないけど、そんな私でも思った。
一目見て、格好いいと。
届けられたボールを打とうと、飛ぶその人。
空中に留まっているようで、崩れることもなく、力強く、叩きつけるその姿。
思わず、感嘆の声が漏れた。
鳥肌が立つ。これが、王者?
「カッコいいでしょー?うちのエース」
「すごい、です」
「なまえちゃんの目を奪っちゃうなんて若利くんずるいなぁ〜」
惚ける私の隣で、エース?を褒められたからか、覚さんが嬉しそうに笑った。
するとその声に気づいた、体育館にいたほぼ全員がこちらを向いて、あのボールを打っていた人もこちらを見て、目を丸くした。
……目を丸くした?
「みんなー!マネちゃん連れてきたよー!」
目を丸くされるなんてもしかしてなにかしてしまっただろうか…と内心、今の数秒をリプレイしまくっていたら、覚さんが私の手を引いて体育館内に上がる。
初対面のときの勢いと違って、本当に優しい触れ方。
この人は本当はこういう人なんだなと再確認したと同時に、こんな扱いされるのは初めてなので照れてしまう。
すると、奥の方からのそりのそりと歩いてくる人と目が合った。
例の怖いおじいちゃん監督で、その隣には若めの男の人。
昨日の睨みが怖すぎて、反射的にピシッと姿勢を正して固まってしまった。こんな体験も初めてです。
「監督、連れてきたよ」
「おぅ。お前」
「は、はぃ!」
近くに来た監督は、私よりほんの少しだけ高めの身長なのだと知った。
相変わらず怖さを羽織っているような人だ。
かけられた声もやっぱり私のこと気に入らないんじゃないかと思うくらい。
だってマネージャー採らないって言ってたもん。採った理由わからないけど不本意みたいな感じだもん。
にこにこしてるの覚さんだけだ…とお呼びでない感に萎縮していたら、監督の隣にいた人が、みんな集まってーとバレー部の皆さんを呼んだ。
(わ…、おっきい人ばっかり…)
遠目だと中々わからないが、近くに来られるとまるで東京の名物スカイツリーが列立しているようだ。
萎縮に加速がかかる私を、監督の隣にいた男の人が紹介してくれた。
「昨日からマネージャーとして入部したみょうじなまえちゃんです」
「! えっ、あ」
「会うの初めてだね。コーチの斉藤です」
「は、初めまして!」
監督の隣にいた男の人はコーチだったらしい。
笑って手を差し出す姿に、監督とは違って警戒心を抱くこともなく接することができそうだと思った。失礼だけど。
よろしくお願いしますと握手を交わすと、にこりとまた笑ってくれた。 良い人が滲み出てる。
人数がとても多いけど、前の方に来ている人たちはなんだか雰囲気が違う気すると、コーチはスタメン?と呼ばれる、試合に最初から出るメンバーと、ベンチ?の入れ替えの皆さんを紹介してくれた。あ、やっぱり特別?な人たちなのか。
覚さんもスタメンらしく、紹介されたときにピースしてきたから笑って返した。さすがにピースし返したらまずいと思ったし。
あと、あの格好良くボールを打ってた人は、牛島若利さんというらしい。名前まで格好いい。
覚さんも言ってたけど、このチームのエースと紹介を受けた。
「今日は初日だから見学とか交流をしてもらって、明日からマネージャー業務を教えていきます」
みんな仲良くしてあげてね。 と、コーチは言うと、再び私の方へ向いて、 緊張しなくて大丈夫だよ。 と気遣ってくれた。
今は覚さんも普通に接するが、バレー部に関わってからまともな人に出会ってない気がしてたから、普通の素晴らしさに感動した。ていっても覚さんと監督とコーチでまだ3人目だけど。
なんとか頑張っていけそうかな?と小さく勇気が出てきていたら、こちらを見ていた監督が、ゆったりと私に歩み寄る。
「役に立たねぇやつはいらねぇよ」
最初のときと同じ。その反らせなくなる目で見つめられ、全員がいる場での、公開処刑宣言を放つ。
体がグッと強張る。この人の使う言葉の圧力は、並みではないなと思った。
もとより、入りたいなどとお願いした覚えもなければ、なぜそんな言われた方をされなければいけないのかも謎である。
理不尽に沈めたのはどちらだ。
言いたいことは山ほどある。
だが、昨日はその圧力に屈したが、今回は、“言葉は出なかった”なんて、言わない。
「全力を尽くします!」
見つめる瞳に挑戦状を叩きつける。
理不尽がなんだってんだ!気持ち落ちるなんて勘弁!
コンチクショウという気持ちが湧くから、なら、完璧にこなせるように頑張ってやる。
初心者だけど、若いんだから!覚えられるもん!
今に見てろよ!なんて、闘志を燃やす私に、にこにこの覚さんと心配そうなコーチだった。
新兵姫の勝負論
(自分自身に負けることなかれ!)