▽カニバリズムにつき注意



おとなたちはお肉をたべます。うしさんやぶたさん、とりさんではありません。
「なんのお肉たべてるの?」ときくと、「だいすきな人のよ」と答えになってないことをいいます。
人はたべれるんですか?おいしいのですか?でも、においはおいしそうです。
このおねえちゃんは焼いてたべるのがすきだそうです。
おにいちゃんは、お肉より赤いジュースがすきみたいです。
すごくしあわせそうにたべているので、わたしにもわけてもらおうとしたら「だめよ」とおこられました。
それにつぎはわたしがおこりました。
おとなたちだけなんてずるい。わたしだってたべたいの。
そんなふくれたわたしを見たおねえちゃんはちいさくわらって、
「あなたはこのお肉のこと好きじゃないから、きっと美味しく感じないわよ。自分の好きなお肉を食べなきゃ」
いつもはすききらいしちゃだめよとおこるのに、そのお肉はべっこなのでしょうか?
わたしじゃ、おいしくなくなっちゃうみたい。
どうやったらおいしいお肉がたべれるのかおねえちゃんにきいたら、「好きな人が出来たらつれておいで。私が腕をふるうわ!」と、わらってあたまをなでてくれました。
おにいちゃんは「出来たら出来たで悲しいけどな」とだっこしてくれました。
おにいちゃんをかなしませるのはいやだけど、おいしいお肉はやっぱりたべたいから、ごめんなさい。


それから何年か後、同じ学校の子に告白されました。
断る理由もなく、別に嫌いでもなかったので答えはオーケーです。
付き合ってすぐ、昔お姉ちゃんやお兄ちゃんに言われたことを思い出し、私はその子を連れておうちに帰りました。
お姉ちゃんとお兄ちゃんに紹介したら、お姉ちゃんはその子を連れてどこか行ってしまいました。私はつまらなくなったので、お兄ちゃんと遊んでました。
なんだか昔から何一つ変わってない気がします。あれから月日は経ってるのに。私も、大人になったのに、な。
しばらくすると、お姉ちゃんが食事の支度ができたと呼んできました。
夕食には早いのに、とダイニングに行けば、ぽつんと一人分の食事がテーブルに広げられています。誰のかなあ?
「さあ、腕をふるって作ったのよ!はやく食べて食べて!」
ああ、そっか。
うきうきしたお姉ちゃんの言葉で、それは私のだと分かりました。
お姉ちゃんの好きなこんがりお肉に、お兄ちゃんの好きな赤いジュース。
一人じゃ寂しいので「一緒に食べよう?」と言ったら、お姉ちゃんはお片付けがあるからとキッチンに戻ってしまいました。お兄ちゃんは「俺それ好きじゃないからいいよ」と。むしろ嫌いなやつ、と付け足して。
ちょっと寂しいけれど、これで私もお姉ちゃんたち、大人の仲間入りなのですね。
何年か前に憧れた、お肉。お姉ちゃんたちをあんな幸せな顔にする味とは、どんなものなのでしょう。
途中、どこかに行ってしまった彼のことが脳裏を過りましたが、どうでもよいことですね。

「じゃあ、いただきます」

がぶり、
はやく食べたくてかぶりついたら、昔っから食い意地はってんな。とお兄ちゃんに笑われました。





げえっ!不味!
「好きな人を連れてきなさいって言ったでしょう!はやく食べたくて嘘ついたわね?」
「まあお兄ちゃんとしては安心したけどな」

あーあ。まだ、大人にはなれないみたい。