▽バレンタイン(2月14日)記念
第二の我が家と言ってもいいくらいの降矢邸で、第一の我が家よりうんと広いリビングで、今日も居心地よく雑誌を読む。
降矢パパとママはこの時間いつもいないけれど、合鍵をくれるくらいの仲なので問題もなければご飯だって作って待ってたりとか、まあそこそこというかだいぶの間柄です。
今日は麟ちゃんも帰りが早いらしいし、みんなでご飯食べれるな。なに作ろうかな。なんて思っていたら、ガチャリと錠の開く音。どうやら彼たちがご帰宅のようだ。
「おかえり〜」
体勢は変えず、視線だけを入り口に向ければ、一番最初に入ってきたのは虎太。
手には大量の紙袋。中にも大量の袋。
ああ、そうだ。とそれを理解したと同時に、残りの二人の姿も見えた。もちろん、手は同じような感じ。
「いらっしゃい、なまえさん」
「お邪魔してます。さっそくだけど、お夕食なにがいい?」
別に毎年のことだし触れるほどでもないか。と、いま一番聞きたいことを尋ねたら、 なあ。 と凰壮が口を開く。
「なんか俺に渡すもんねーの?」
大量の袋をテーブルに置き、見下ろす彼に抜けた声が出た。
「雑誌の発売日、今日だっけ?」
「ちげーよ。今日なのはバレンタインだろ」
「冷蔵庫にブラックサンダーと呼ばれるものが…」
「義理じゃん」
なんだ。なにが不服なんだ。
それだけのチョコレートを女の子からもらっておいて、きっとそれは義理ではなく本命で、嫌味か自慢かというほどで。
これ以上欲しいなんて欲張りだ。という顔をしても、シカトして見下ろす凰壮。
その目、かっこよくてむかつく。
「…わたしの本命は高いよ」
「いいぜ。俺の人生全部やるよ」
な、ん、な、の。
そういう恥ずかしいことさらっと言って。というかよく言えるなおい。
悪戯っ子みたいににやりと笑うその顔。そりゃあモテるよな、なんて。
持っていた雑誌で赤くなっているであろう顔を隠したら、ギシリと鳴るソファー。
何事かと顔をあげれば、次は竜持がわたしを見下ろしていた。
「な、なんでしょう」
「ふふ、本命の催促以外に何かあると思いますか?」
「…っ。う、上に、乗らない、で」
「おや、なまえさんは乗る方がお好きでしたか?構いませんよ僕は」
「………」
マ、マセガキめ…っ。
兄弟揃ってなんて恥ずかしいこと言えるんだ。
次男はどっちかっていうと変態発言だぞそれ。
わたし小6のころこんなこと言えなかったというか知りもしなかったのに。変なとこばっかり発達して。
一時は冷めた顔がまた熱くなってきて、跨がる竜持を睨めば余裕綽々の同じ目が見下ろす。好きだなあ。むかつく。
こつん
「…あ?」
反らしたら負け、というか捕まって反らせずにいた視線は、なにかが頭に軽くぶつかったおかげで無意識にそちらに移った。でもほとんど変わらなくて。
やっぱり見下ろすのは、その目。
ぶっきらぼうに差し出されたのは、虎太には似合わない、可愛らしい小さな箱。
意味がわからないわたしは、それと虎太を交互に見つめる。ああ、もしかして。
「でも、虎太がもらったものなんだから─」
「馬鹿。ちがう。」
「なっ、ばかって」
「もらったもんじゃない。俺から」
「……え」
口数少ないのは昔からだけど、さ。
いまこの状況で少しの単語じゃ、ちゃんと理解するの難しいって。
でもなんとなく分かっちゃったわたしは、なんでこんなときばっかり頭の回転が良くなるのか恨んだ。
だってまた、まただよ。顔熱い。
そっと受け取ったその逆チョコレート。
顔を隠す雑誌はいつの間にか手元から落ちてるし、見下ろすその目、綺麗。むかつくほどに。
「本命。来月、ちゃんと返せよ」
ああ、もう。たえられない。
かっこよくて好きで、こんな綺麗な瞳に同時に見下ろされるなんて。
心臓、破裂する。
だって年に一度の
バレンタインですもの
(甘くなくっちゃ、終われない)
Happy Valentine 2014!