町中を全力で走るJKなんてあまり見かけない。我ながらそう思う。
チャイムが鳴ると同時に鞄を勢い良く掴み、学校を出て、一目散に走る。
今日こそはとの思いが私をここまでさせるんだろう。

つい最近、駅前にできたケーキ屋さん。
とても評判がよくて、朝から行列。
夕方にはほとんどの商品がなくなる、なんとまぁ学生には辛いお店だ。
登校時には開店前。下校時には空のショーケース。
商品さえお目にかかることが難しい有名店。
本日月曜日。部活も委員会もない。この日なのだ。
そこに、今日こそは、行きたい。

みな夕方にはほとんど商品がないことを認知し始めたからか、比較的列がなくなる時間。
運よく入れれば、なにかしらと思う。
けど、お目当ては、なんでも、じゃない。
平日限定のシュークリーム。
なんでどうして平日限定なのかと叫びたい。
土日なら並んででも買うが、平日限定なんて学生にサボれと唆す悪魔だ。
もちろん勉学第一が学生だ。そんなことはしない。だからこそ、今、こんなにも走っているのだ。
そこまでして食べたい。なんでって?シュークリームが大好きだからです!!

(! ありそう!)

やっと見えた看板に足を緩める。入り口の自動ドアが開いて見えるショーケースには、ぽつりぽつりと残った商品が買い手を待っていて、お目当てのものも例外ではなく、たったひとつ、残っていた。

いい。ひとつでいい。食べられるのなら文句は言わない。
待ちに待った瞬間に、ここまで走った甲斐があったと、安堵と歓喜に満たされて、目の前のお姉さんに、ピッとシュークリームを指差して待ちに待った台詞を言う。

「「このシュークリームひとつください」」

「「!?」」

かぶった。自分の発した声に、低い声がぴったりと。
驚いて隣を見れば、学生服を来た男の人が私と同じものを指差しながら、こちらを見ていた。
見上げる瞳と見下ろす瞳。数秒の沈黙の後、お互い日本人なんだなと思った。どうぞ、と絞り出した声までかぶって、ああもうほんと。

「…私は大丈夫なので、どうぞ」

「いや…走るほど欲しかったんですよね?譲りますよ」

なんでばれてんの。
どこかで見られてた?まぁ確かに入り口まで走り抜けてきたからこの人が私のすぐ後に入ってきてたのなら見られていてもおかしくはない。
というか人が入ろうとしてたのに気づかず全力で自動ドア開くの待つとか自分引くわ。

「いえ、大丈夫なんで。また買いに来るのでどうぞ」

「学生ですよね?ここのシュークリーム平日限定だし、中々買えないんじゃないですか?」

「いや、大丈夫ですので。召し上がってください」

最早大丈夫の意味が自分でもわからない。
向こうも譲ってくれているが、こういう時気が弱いのかなんなのか。
そうですか?じゃあ頂きますね!なんて出来ない。この人だって食べたくて来てるんだ。同じ学生なら尚更気持ちはわかる。
強がりだが、また、走ればいいだけの話だ。

「んー…。じゃあ、今回はいただきます」

悩んだように頭をかくその人は、事を見ていたお店のお姉さんにそのシュークリームをお願いしてお金を払う。
ああ、シュークリームちゃんよ…。次こそは私のもとへ…。
袋に入れられる愛しの好物を見守り、ドアへの踵を返す。
運よく残っていたこの一個を逃したら、次はいつなのだろう。
またの月曜にもう一度チャレンジしようと疲労感の中決意したら、 あの。 と後ろから声がかかる。

「月曜ってまた来れます?」

「…え、」

「お詫びじゃないけど、次一緒に食べませんかと思って」

俺月曜なら部活なくてこの時間くらいに来れるから。 と、店内のイートインスペースを見やるその人。
言葉の意味は理解できたけど、そこまでしてもらわなくてもと思うのが本音。

「いや、」

「わかってます。急にこんなの怪しいって、俺でも思います。でも、女の子に譲ってもらったままは男として嫌なんで」

本音、だったんだけど。
目の前でそう言う彼に、どうしてか、断る気持ちは消えてしまった。
今回だけは、頼まれたものだからと。
でも自分も好きだから、次のとき一緒に、初めて食べませんかと。
背がおっきくて、最初無表情に思えたけど、小さく照れ笑いしてるみたいな。
そう勝手に受け取った私は、その人が可愛く見えて、あぁきっと良い人なんだろうなって、自然と漏れた笑みをその人へ返す。

「では、是非」

甘いクリームに惹かれる出会いなんてあるのかな。
今の私は、まだわかってなかった。





かぶりつけ!その出会いに!
((ラインのアイコンまでシュークリーム…))



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