「なァんでテメェがいるんだァ…?」
もちゃもちゃと、台所にあったおはぎを居間に持ってきて食べていると、怒ってるんだか怒ってないんだか(いやたぶんこれは怒ってないな)実弥がいつものように目をかっぴらいたまま戸の前に立っていた。
「聞いてくれるかね、実弥くん…」
「うぜェそれ置いて消えろカス」
「実はね…」
「ふざけんな」
なにかをキャンキャン吠える彼を放って、今日の不運を語った。それはもう私は爆発しても良いくらいだったんだ。
事は小一時間程前。
お腹がすいて、たまたま近くにあった定食屋に入った。
そしたら見知った桜餅頭が見えて、あぁ、甘露寺もここにくるんだなと思って声をかけたの。
パァッて顔を赤らめてくれて(あなた誰にでもそうね)、せっかくだし一緒に食べようって前に座らせてもらったのよ。
よくここに来るからって、おすすめのどんぶりを5つ程教えてもらってね。まぁ注文したのは1つなんだけどね、待つこと数分。
私のどんぶりかと思ったら、あれよあれよと甘露寺の前にひとつふたつとおぼんが並んでテーブルを埋め尽くしてね。
うわぁ私の置けるかなと思ってたんだけど、なんとか置けたの。
よく食べるなぁって思っててもまぁ年頃の子にそんなこと言うのもあれだし周知の事実だし、お互い手を合わせていただきます。
で、食べると思うじゃん?
そしたらね、どこからともなく伊黒よ。出てきてさ。
いや、どこからというよりたぶんちゃんと扉からだけど私らのテーブルの横に立ってさ。
箸持ってフリーズ。甘露寺は わぁ!伊黒さん! なんてまた頬染めるんだけどさ。
甘露寺に挨拶したあとの私への目よ。
差ね。差。無言だけどなんでお前がここにいるんだ甘露寺と仲良くするな退け消えろみたいの伝わってくんの。
目の前でウフフな甘露寺と邪魔すんなオーラの伊黒。
もう、もうね。耐えられませんよ。(そのリア充雰囲気に)
邪魔すんなっていや私が先にいたよね??約束してないよねあんた?みたいなね?
ストーカーもここまでくると恐怖。あんなののどこがいいのか甘露寺も。
他に一切優しくないやつを優しい人って呼べるのかね??
そりゃ甘露寺には優しいでしょーよ。もうやだ爆発する。
そう思って甘露寺に用事あったの忘れてたって言ってお代は伊黒につけて帰ってきたの。
ご飯一口も食べれないなんて、なんてかわいそうななまえちゃん…って思うでしょ?
「知るかァ。第一帰ってきたってここはテメェの家じゃねぇだろが」
「いや食べ損ねてお腹すいちゃったし、ここならおはぎあるから…」
「人んちを補給所にすんな」
「でも美味しいよね、おはぎ」
「2個目に手ェつけんな、いい加減帰れ」
「これ実は4個目よ」
「物取りじゃねぇか」
つぶあんこしあん抹茶にきなこ。
とりあえず全部制覇しましたな、と粉のついた口の端と指先を舐めとって、勝手に煎れたお茶をすする。
ほう、っと、胃に食べ物が落ちる感覚と、満たされた心身に一息つく。
舌打ちと共にどかりと隣に腰をおろす実弥は、つぶあんのおはぎを掴んだ。
「うがい手洗いしたぁ?」
「食ったら帰れェ」
「じゃあもう一個食べよ」
「ふざけんな俺の分なくなるだろ」
「じゃあ食休みくらいここでさせてよー」
「…茶ぐらい煎れらんねーのか?」
「実弥の湯飲みなぁ…台所でなぁ…」
「…ほんと使えねーなお前」
もっちゃもっちゃと、隣で実弥がおはぎを食べる。
食べながら、ふぅ、と肩を落とすのも、息を吐くのも、わかる。
どこ行ってたのか知らないけど、ちょーっとだけ、疲れてるの、わかる。
「ねぇ、泊まっていい?今日」
「帰れ。茶も入れられねーやつはいても邪魔だァ」
「じゃあお茶はいれる」
「じゃあじゃねぇんだよ」
「泊まる理由あればいいでしょ?」
「お前の思考回路うぜぇぇわ」
「稽古つけたりとかさ?夜まで。そしたらそのまま寝ちゃうかもしれないし、実質お泊まりでしょ?」
「明日にしろ明日。お前じゃ相手にならねェわ」
残りのおはぎをぺろりと平らげ、同じように指先を舐めあげる実弥の、本音は分かる。
疲れてるから稽古嫌なんでしょ?そんなのなまえちゃんにもお見通しよ。
って、そんなのそれが、建前だってのも、実弥は分かってる上で、拒否してる。
「ねーねー」
「うるっせぇ。湯飲みとりいくから退けェ」
「煎れてあげるよ。座ってて」
「帰る気んなったか、早く出てけ」
「んー?その気、にはなったかなぁ?」
「………」
「普通に、ただゆっくり、一緒に過ごすだけでいいの。一緒に居たいの」
「………」
「全部やってあげる。だから休んでて」
実弥、拒否しないから、立ち上がって、まずお茶を煎れてあげて。
寝巻きは、持ってきてないし実弥の借りて良いかなぁ。晩ごはんはどうしようかなぁ。
「…チッ、ほんとよォ」
ねぇ、聞こえなかったけど、なにか呟いた実弥の言葉、分かっちゃうよ。
たぶん、私も思ってること一緒だ。
“伊黒と甘露寺のこと言えない”
だって、前じゃなくて、隣に座って。
湯飲みも私ので良かったんでしょ?
わらっちゃうくらい、ほんと。
そこかしこ
さねみちゃんがおはぎ好きって知ったときの勢いで書いたやつ。