「なまえちゃーん!」

「うざいっ!」

ばすんっ
お昼時の、賑やかな男女の声で埋まる校内に、いつものやり取りがいつものように溶け合う、午後12時すぎ。
顔面に投げられた柔らかふわふわパン入りの袋を地面に落ちるまでにキャッチする、しつこくて気持ち悪い女たらし古市。

毎日毎日この時間になると教室の扉を開けて、私にパンを投げられて、それをキャッチしてへらへら。
よく懲りもせずに来るものだ。連れてこられる男鹿とかいう人も大変だろうな。

「ほら、はやくご飯食べにいこう!今日は天気がいいから屋上が…」

なんて、うんたらかんたら。
いつも思うけど、彼はほんとお喋り。
その話術で女の子を落とす〜うんたらかんたら、みたいなことを前に言ってたけど、はっきり言って出会う前の噂から、女の子を一人でも落としたなんて話は聞いたことがない。
まあ確かに外見は悪い方ではないけれど、中身がこれじゃあ仕方ないと思う。

「あ、そうだ。前になまえちゃんが言ってたお菓子あるじゃん?それさ、見つけたから買ってきたんだ」

はい。 と笑顔で渡された、しばらく見かけなかったお菓子。
仕入れなくなったからか近くのお店には売られなくなったそれを、彼はどこで見つけてきたのだろう。
いや、それ以前に、その話をしたのは結構な前である。
よく覚えていたな、と彼を見たら、その視線にパンを食しながらにこりと笑って返した。

その笑顔にまた胸が鳴ったが、悟られたくなかったためコクリとジュースを一口。
その後に、 ありがとう。 と小さな声でお礼を言えば、そんな声さえ聞き漏らさずに

「だいすきななまえちゃんのためだもん。また買ってくるね」

なんて言ってしまう彼は、実は中身もかなりいい男なのかもしれない。
ま、結構前からそれは思ってたけどね。





知らないし興味ないし面倒だけど、そろそろこれを恋心と認めてあげようかしら
(今度は一緒に行こうかな。は、言うとつけあがるから、またこんどね)