センチな夜








眠れない。眠れなさすぎる。
今日はたっぷり寝たいと、いつもより早くベッドに潜り込んだというのに。何故だか眠りたい時に限って睡魔は訪れてくれない。授業中には迷惑なくらいやって来るのに恨めしいやつだ。



どうしよう、暇だ。携帯を弄ると余計眠れなくなると言われているけれど、睡魔が来ないのに延々と目を閉じ続けるのが嫌になって、枕の下に沈み込ませていた携帯に手を伸ばす。

SNSを開いて友人たちの呟きに反応を送ったり、ニュースサイトで芸能記事なんかを読んで時間を潰すも、相変わらず私の目は冴えたままだ。
家族はもう眠ってしまったんだろうな、と家電製品の音以外聞こえなくなった我が家に耳を澄した。




外に出ればまだ仕事をしている人や、遊び歩いている人が沢山いるというのに、なんだか私だけが眠れなくなってしまったみたいで寂しさを覚える。このまま眠れずに朝を迎えてしまうのだろうか。生活リズムが崩れるのでそれはなるべく避けたいけれど。




何回目かの寝返りを打ってから、朝返そうと思っていた友人からのメッセージに返信をしてしまおうと緑のアイコンをタップする。短いレスポンスと可愛いらしい流行りのスタンプを送信してトーク一覧に戻ると、上から2番目に表示されている名前に目が止まった。





"仁王雅治"
……雅治なら、まだ起きているかもしれない。
気づけば雅治とのトークを開いていた。最後にやり取りをしたのは夕飯前。

雅治とのトーク画面のまま、先程友人に送ったスタンプの、別の種類を見れば。「さみしい」と呟いているクマのスタンプをみつけた。





「……さみしい」


口に出してみれば、妙に馴染んだ。正にこれだ。ひとりで眠れない夜を過ごすのは、なんだかさみしい。親指が動く。雅治なら、という気持ちがそのスタンプを送信していた。




「待って、これ凄く恥ずかしくない!?」




送信してからそんな羞恥心に襲われる。
ダメだ、やめよう。送るスタンプ間違えたって書いてしまおう。慌てて文字入力をタップするも、一足遅かった。現在の時刻の上に"既読"の文字がついている。いや、まだ間に合う。既読が付いたって間違えたと送ってしまえばこっちのものだ。


諦めずに「間違えた」という文字を打ち込んだ途端、トーク画面が着信画面に切り替わる。
雅治の名前が携帯の画面に大きく表示されて、私は思わず携帯を落としそうになった。



折角かかってきたのだ。出なければ勿体ない。深呼吸をしてから、応答を押す。



「かさね?」
「びっくりした!急にどうしたの」
「どうしたはこっちのセリフじゃき。いつもならもう寝とる時間じゃろ」
「んー……。なんか、眠れなくて」




電話越しに聞く雅治の声が、どこか隙間が空いた私を満たしてくれる気がした。



「それでさみしくなったんか」
「ちょっと、子どもみたいって思ってない?
……雅治なら、何とかしてくれると思ったんだもん」
「そうじゃのう、かさねの為なら俺は何でもしちゃるぜよ」




雅治が喉の奥で笑う声がこちらにも聞こえる。
ちょっとだけ声を聞いただけなのに、もうさっきのようなブルーな感情は消え去っていた。




「ねぇ雅治」
「何じゃ」
「眠れるまで、電話繋いでてもいい?」
「そうしんしゃい」



あぁ、やっと安心した気持ちで眠れそうだ。



「そういえばのう」
「ん?」
「子どもみたいとは思わんかったが、可愛いらしいとは思ったぜよ」
「そういうこと言わなくていいって!」









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