あったか仁王





※大学生パロ※

あーー疲れた。とにかく今日のバイト疲れた。
バックヤードの扉から外に出た途端に冷たい空気に包まれて、緩めに巻いていたマフラーを巻きなおした。



店内には暖房が効いていたし、働いてる時はてきぱき動かなくてはならないから外の寒さなんて忘れてしまってたのに。こんなに寒いと心も冷たくなってしまう。



最近始めたバイト先は、大学と最寄り駅の中間地点を選んだため電車に乗らないと帰ることが出来ない。
定時だろう帰宅ラッシュは過ぎたものの、飲み会帰りのサラリーマンや部活動を終えた運動部らしき高校生が車内に目立つ。疲れたなぁという思いで乗車しても、席には座れそうになかった。もう少し、もう少し頑張れ私の脚。




吊革を掴んで揺られること数駅、ようやく私の最寄り駅に停車した。慣れた動作で定期をかざして改札を抜けると、残高と共に定期に記された日付が出るのを視界の隅で確認。そろそろ更新の時期だなぁ、またお金飛んじゃうや。




駅を出ると更に空気が冷たくなっている気がして、マフラーを隙間がないように調節した。
なんでこんなに寒いの。駅から家まで自転車で通ってるのに今日は手袋を忘れてしまっているのを思い出して、疲れで気が重い分余計にテンションが下がった。
家に帰ったらまずはあったかいお風呂入ろうそうしよう。お風呂出たらスープとか飲もうそうしよう。




月に向かって歩きながら息を吐けば、白い息が出る。きっとこれ寒さでサドル濡れてるに違いない。ハンカチで拭いてしまえ。



駅を出たすぐ側の駐輪場。仕切りのすぐ横にいつも私の自転車は鎮座している。鞄から鍵を取り出して自転車に目をやると、人の影があった。
駐輪場は電気が切れているらしく真っ暗でその影をうまく認識できない。隣に停めている人だろうかと進むも、その人影は私の自転車の荷台に腰掛けているように見える。




え、どうしよう。椅子代わりにされてない?
早く帰りたいんだけど。あったかハイムが待っているんだけど。所有者私だし文句言っても許されるよね?





「あの」
「おかえり」
「……は」





そう漏れた息から白のモヤが消えて、目に入るのは、電気が点いていれば輝いたであろう銀色。




「何でいるの」
「急にかさねちゃんに会いたくなってのう」
「連絡、来てない」
「ドッキリじゃ。 バイトで疲れたかさねちゃんをお出迎えするまーくんやき」





仁王の地元はここじゃないし、とくに私の家に来る時以外で降り立つことが無いというのは知っている。本当に私に会いに来たであろう仁王に冷えきった心が溶かされそうだった。





「ずっと待ってたの?」
「シフトは教えて貰っちゅうきの。それに合わせて来ただけじゃ」
「やだ、仁王最高。だいすき」
「お疲れさん」
「ほんとにお疲れさんなんだよーー!」




まだ私の荷台に腰掛けている仁王に正面からなだれ込むと、優しく受け止めてくれる。
お構い無しにボタンの閉じられていないコートの中から背中へと冷え切った手を回すと、仁王の体温に触れた。




「仁王、あったかいーー」
「背中にカイロ貼っとる。かさねちゃんは冷えすぎ。送っちゃるき帰ろう」
「ん、ありがとう」




仁王が運転する自転車が風を切って進む。びゅう、と大きな音を立てるけど、私は温かい背中のおかげで寒さなんか気にならなかった。








((自転車の二人乗りは禁止されています。あくまで演出ですので悪しからず……))



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