耀哉が用意してくれた部屋に移動し、詳しく話を聞いた。
鬼のこと、鬼と人間のこと。
鬼殺隊や、隊士が使うという呼吸について。


何年も生きてきたけれど、鬼殺隊の人に遭遇することがなかったのでその様な仕組みで人間が鬼に抗っていることに驚いた。ずっと昔から続いてきた、繋がってきたものなのだと耀哉は説明してくれた。



「鬼殺隊で、その日輪刀じゃないと鬼は倒せないんだ......」
「えぇ。夜中の闘いが延びて朝日が昇ったお陰で勝つ、ということもありますが」



鬼は陽の光が弱点だ。浴びると散り散りとなって消滅してしまう。これは何度か目にしている。
そして、少し気だるくは感じるが日中活動ができる己自身が希少なことであるというのもその際認識した。


鬼の自分ですら知らなかったことを一つ一つ、説明を受ける。それだけの数、人間は鬼と闘って、情報を得て来たのだろう。



「私も、鬼殺隊になれるの?」
「鬼同士の戦闘は、終わりが無いので無意味になってしまいます。ですが、人間と同じように呼吸を学び、日輪刀の使い手となれば話は変わって来るでしょう」
「ならやる」



間髪入れずに返事をした私に、耀哉が固まる。
かなり話し込んでいるのに崩れない、糸を張った姿勢が美しかった。



「......日輪刀ですので、かさねが使用するとなると、かなり扱いにも気をつけなくてはなりませんよ。頸を切られると鬼は消滅してしまう」
「いいよ。私それなりに強い自信あるもん。
それにさ、耀哉が誘ってくれたんだよ?
やる。」



鬼でありながら私は鬼のことなんてどうでもいいと思っている薄情者なので、それならば大好きな、面白い人間たちの力になりたい。


最近は寝るしかやることも無くて暇だったんだ。
人間と沢山関わるチャンスだろうし、無駄になんてするわけない。



「ありがとう、かさね」
「まず何したらいいの? 呼吸ってやつ?」



人間であれば、"育手"という呼吸の使い方を教える者の元へ修行に出るのだという。私も同じ手順だろうか。



「先ずは、見てもらいましょうか」









「おぉー......。本当にやってる」



私が最初に目を覚ました建物(聞けばあれは鬼殺隊の本部だったらしい)から、少し離れた山にやってきた。月の光も弱く、暗い闇が山を包んでいる。
深く被っていた頭巾を外すと、辺りがよく見える。私の位置からはかなり遠いけれど、そこには鬼と、人間が1人。


実際に鬼相手に呼吸を使うところを見て来なさい。と耀哉は私にある任務の場所へ向かうことを言いつけた。但しどちらにも見つからず、遠くから観察すること。これが条件だった。



「あの鬼強いのかなぁ......。すぐに決着は着かなそう」



先ずは呼吸を見なくては。
隊士の腹部、肺、胸、喉、口、鼻。呼吸に関わるであろう部分を一点ずつ見る。
見て、頭で理解して、理解したら同じように出来るのか試す。その間にも隊士は色々な技で鬼に切りかかったり、逆に鬼に仕留められそうになったりと、見ていて少し焦る。


助けに行こうと思えば出来るけど、禁止されているからできないのがもどかしい。それに私も隊士に切られてしまう可能性だってある。
他にもたくさんの人間がこうして鬼と戦って、命を落としたりしていると耀哉は言った。


何で、鬼が居るのだろう。
どうして、人間を食べるのだろう。
ずっと考えているけれどわからない。


観察していて気づいた点としては、この隊士の技は恐らく6通りであること。下半身の重心や筋量が重要となってくるであろうこと。
あの隊士の男より私は細いけど、鬼としての力を使えば補える。これでも鬼だ。そういった点での力はかなりある。発揮しないでどうする。



「あ、」



呼吸、少しだけわかったかもしれない。
スゥ、と吸い込み下半身を意識して力を込める。ピリピリと痺れるような空気に包まれた気がしたのと同時に、隊士が鬼の頸を切る。背中に掲げた"滅"の文字が、全てを物語っていた。


あぁ、良かった。






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