「説明は以上となります。それでは明日から4ヶ月間、よろしくお願いします」

恐らく現場責任者であろう男性の合図でパイプ椅子から腰を上げた。
今日は朝から登録していた短期バイトの説明会だった。内容は期間限定で出店するというコンセプトカフェの店員。短い期間でのテナント契約でやっているらしく、前回はウェイ系なクリエイターがBarを出していたのだとか。
応募をして採用された時点でメニューやマニュアルは資料が家に届いていたので、実際の動きや接客態度などの確認のための会だったのだろう。あとは働くスタッフとの顔合わせといったところか。
短期バイトとして雇われたのは私を含めて20人と少しの人数。そこにカフェの運営会社から来ている社員の人が少ないけど加わって、4ヶ月を共にする。

私が希望を出したのはウェイターとしてのホール業務。限定の割にはかなりお洒落な店内で働ける事にわくわくした。
配布された資料や、持ってきていたマニュアルをリュックに仕舞って、帰る準備が整う。今日の説明会だけでも時給1150円、交通費付き。やったぁ。

「のぅ」

浮かれていると、斜め後ろから声がする。
振り返ると、顔合わせに見た時から目立つなあと驚いた銀色の頭の人が私を見ていた。


「何、でしょう」
「最後の方意識飛ばしてて聞いとらんかった。ざっとでえぇから教えてくれんかの」


一切表情を変える事なく銀色の人が言う。
えぇ……寝てたの。バレてはなかったんだろうけど、勇気あるなぁ。
別に教えることは構わないのだけど、ほかの参加者が続々と部屋を出て行くので、場所を移したい。部屋借りてる時間とかも会社側にもあるだろうし。

「わかりました。でもとりあえず、歩きながらでいいですか?」
「プリ」

銀色の人が立ち上がって、そのスタイルの良さに少しびっくりした。何だろうさっきの相槌。







「え、同い年じゃん。タメにするね」
「見た時からそんな気はしとったぜよ」


駅までの道を歩きながら、聞き逃していたという部分の説明を一通り済ませると、お互いに自己紹介をしていなかったのもあり、改めて聞けば銀色さん──もとい仁王くんは私と同じ大学1年生だった。大人びてるから年上かと思った。ぴかぴかの大学1年生。見えない。

「露草の担当はホールじゃったか。俺も同じじゃき、よろしくの」
「そうなんだ! 良かったぁ部署内で気兼ねなく話せる人いて」
「勤務中に困ったりしたら露草を頼りにしちょるわ」
「やだよ社員さんにしてよ……」


乗り換えを行う途中の駅まで一緒に電車で揺られながらもっと濃く互いのことを話した。
仁王くんが通う大学と私の大学は、一応同じ沿線上にあるのも関係して、まぁまぁ遠くない所に位置していた。共学の大学かあ。私が通うのは女子大なので授業の雰囲気違ったりするんだろうな。


「ええのう女子大。甘い匂いとかしとるんじゃろ」
「それよく言われるけどあながち否定できないんだよね」


本当にビックリするくらい良い匂いのする人とすれ違ったりすることがある。
デパコスの店員さんかなってくらい女子力あるタイプだ。


車内のアナウンスが、私の乗換駅に到着することを知らせる。
私は明日の開店初日からシフトが入っているけど、仁王くんは入ってなかったから、次に会うのはシフトが被っている明後日になる。


「じゃあ私ここで」
「また明後日じゃの」
「うん、お疲れ様」


軽く手を挙げてホームへと降り立つ。
流れて行く電車の中で、仁王くんが閉まったばかりのドアにもたれ掛かるのが見えた。

うーーん、やっぱりスタイルいいな。




- 第一印象は