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蝶は薔薇の香りに惹かれる


そこは都心から少し離れた場所にあった。


中世ヨーロッパにあるような、モダンでレトロな、少し大きい洋館がぽつんと建っていたのだ。



そこには誰かがいる気配はあるのに、誰も中に人がいるところを見たことがない。
庭や花壇の花はきちんと手入れされているのに、家の主人が家から出たことは一度もない。

近くに住む人たちは口々に言う「あそこに近づくものはあまりいない」と。

妖怪が住んでいる、だの、吸血鬼が住んでいる、だの、そんなうわさだけが流れていた。


そしてそのうわさに、ある尾ひれがつくようになった。


あそこの館の妖怪は若い男を喰らう、と。

なぜ、そのような尾ひれがつくようになったのか。

それは、高校生くらいの若い男達がその館へふらふらと吸い込まれるように入っていく様子がたびたび目撃されたからだった。

一度入った人間は、二度と、その館から出てこないという……。






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黒子は、少々焦っていた。

なぜかというと、道に迷ってしまったからである。


なぜ、道に迷ったのか。それは彼が欲しかった小説が少し遠い書店にしかなかったので、部活の帰りがけにわざわざ遠回りしてまで買いに来たのである。


購入したまではよかったが、気持ちが浮かれていたのか、電車の駅がどちらにあるのかわからなくなってしまった。そうこうしているうちに、空はだんだんと赤く染まり、人も徐々に少なくなっていった。電話でもしようと思ったが、こういうときにかぎって電池切れになっているものである。


……誰かに道でも聞きましょうか……


黒子は顔にこそ出さなかったが、内心ばっくばくだった。


と、あたりをうろうろしていたら、とある建物が目に入った。

それは少し大きいレトロな洋館であった。

こんなところにめずらしい、と、黒子は興味本位でまじまじとその館を見た。
少々黒ずんでいるが外装を見るとなかなかの豪邸だ。花壇の花がきちんと手入れされているところを見ると、どうやら誰かが住んでいるらしい。


すると、その花からなのか、ふわっと甘い香りが漂ってきた。
ちょっと重いような、でもなぜかクセになるような、そんな甘い香り。


……ここの人に道を聞いてみましょう……


黒子は、甘い香りに惹かれるように、ふらふらとその館の門をくぐった。




………………。



こんこん。

軽くドアをノックする。古い洋館らしくインターホンがなかったのだ。
音が届いたのかどうか不安だったが、ガチャリと鍵が開く音がしたので、黒子は内心ほっとした。


がちゃりとドアが開く。



「あらいらっしゃい、お客さんかしら」



出てきたのはとてもきれいな女性だった。ブラウンの巻き髪に、少しきつめのルージュ、大人っぽい黒の服を着ていた。

女性は、黒子を見るとにこっと笑った。



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