青の破軍
4
「ええっと、あとは弾とスラスターを直せばいっか……」
深夜。1番隊も参番組も寝静まってる頃に、私はひとり相棒の修理をしていた。
こんな時間くらいしか、相棒の相手してやれないもんね。
「よし。必要なものはチェックしたし、今日はもう寝るか」
だからと言ってあんまり長く構ってやったら、今度はこっちが倒れちゃうから。そこらへん難しいよ。
格納庫と寄宿舎は離れているから、外を移動しなきゃならない。ちょっと寒い。ノースリーブなんか着てるからかな。
ふと、上を見上げた。真っ黒い空には星が点々と光っている。
夜空は綺麗だ。
別世界の火星でも、昔の世界と同じくらい宇宙が綺麗なのは不思議だ。でも、それと同時に少し安心する。地球と火星の距離が近いせいだろう。
地球と違うのは、空に月がないことくらいだ。
「おい」
「あ、オルガ」
気がつくと、オルガが目の前にいた。オルガも寒いのだろうか? ポケットに手を入れている。
「またMSいじりか?」
「まあね。オルガは?」
「おやっさんとMW(モビルワーカー)のチェック」
「そっか、もう明日だもんね。お疲れさま」
「ああ」
Hi-νガンダムのことは、おやっさんの他に、オルガにだけは話してあった。
どうしてもパーツを盗むと、一人じゃ困難なときがあるから、オルガに手伝ってもらったりしてる。その代わりに、私はマルバのお世話中にゲットした情報をオルバに横流ししてる。ケースバイケースってやつ?
まあそれをヌキにしても、難しいことを相談できる、数少ない仕事仲間のひとりだ。
「ところでお前、いつまでここにいるんだ?」
「え?」
「あのMSが直ったら消えるんだろ? ここから」
「あ、ああ……まあね。残りの部品は地球で揃えようかなって思ってるの。あとはそれを取り付ければ完成」
いつまでも彼を頼って盗むのは危ないもんね。
それに、今までにないくらいの大仕事が3番隊に乗り掛かっている。
私は何回も宇宙に上がっている。今回だって宇宙へ上がるし、今までのお礼が少しでもできたら。
「だから、今回の仕事が終わったらお別れかな」
「そっか。ガキ共が悲しむだろうな、けっこうお前になついてたから」
「ん……」
思ったことを口にしようとして、やめた。
たぶん、それはあまりにも悲しいことだろうから。
「……でも私、オルガや三日月、カタキくんやおやっさんや……みんなのこと嫌いじゃなかったよ」
「俺も、アイリンとなら3番隊を引っ張っていけると思ったさ」
「なにそれ、口説き文句?」
「俺のとっておきだ」と、暗闇であまり見えなかったけど、オルガはウインクした。
「実際お前は上手くやってくれたよ。世渡り術を学んだり、ガキ共の世話をしてくれた。正直無くすのが惜しいくらいだが、待ってる奴がいるんだろ? ここに縛られてちゃ、たまんねえしな」
「オルガ……」
「俺らのことを気にかけてるなら、心配はいらないぜ」
オルガは、私の前にぐっと拳を突き出した。
「俺たちは俺たち、宇宙ネズミなりにあがいてみせるさ」
「……」
私は「そうだね」と返して、オルガと別れた。
そうだ、辛いことばかり頭に残ってて、それから離れようとばかり考えてたけど、ここからいなくなるということは3番隊の人達と別れるってことだ。
たぶん、今度ここを離れたら、二度と会うことはない。
待遇が似ていたり、年が近いこともあって、彼らとはよく話をした。バカしたり、一緒に殴られたりもしたっけ。
「全然、考えてなかったなあ……」
あまりにも突然に、私の中で『ここを離れたくない』という気持ちが沸き上がってきた。
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