青の破軍
4
とても刺激的な夜から、朝を迎えた。といっても、まだ日が昇るか昇らないかの時間だけど。
私は特にやることがなかったから、昼間と同じようにHi-νガンダムの中で夜を過ごした。
興奮してたし、寝るつもりもなかったから、残ってた音楽や映画を見たりね。
1軍リーダーと、その腰巾着であったハエダとササイが殺されて怖じけついたのか、ほとんどの人たちはCGSを離れることに決めたらしい。
残っているのは、ビスケットがムリヤリ残らした会計係のデクスター・キュラスターさんと、おやっさんくらいだった。
正直、おやっさんが残ってくれるのは嬉しい。私もおやっさんには、良い意味で色々とお世話になったし、ああいうお父さんみたいな大人も、ここには必要だと思うから。
デクスター・キュラスターさん? あの人の眼鏡面白いよね。今度いじってみようかなあ、見た感じ押しに弱そうだし。
それで、映画も飽きちゃったから、ランニングでもしようかと外に出たときだった。
「……あ」
ひとりぽつんと、外灯の下でタブレットとにらめっこしているオルガを見つけた。
「おはよう、オルガ」
「あ? ああ、アイリンか」
オルガはこっちに気づくとにっこり笑ってくれた。少し疲れた顔してる。この分だと、どうやら寝ていないらしい。
「早いな、お前。寝てなかったのか?」
「オルガこそ、寝てないでしょ」
「団長は色々と忙しいんだよ」
オルガがふっと笑った。私もつられて笑みを返す。
「社長さんになった気分はどう? まだ実感わかない?」
「いいや。やることが色々ありすぎて、イヤでも実感するよ」
私は声を出して笑ってしまった。オルガも、困ったように笑った。
「困ったことがあったら言ってね。できる限りのことはするつもりだから」
「もちろんそうするさ。今は藁でもしがみつきたいからな」
「わあひどい、私は藁なのね。その程度の価値なら手伝ってやらない」
「なら、お前はどのくらいの価値があるんだ?」
私は少し考えてから、答えた。
「100万ドルの夜景よりも、かな?」
「なんだそりゃ」
今度はオルガが声を出して笑った。
なんか、ここ最近色々あって殺伐としてたから、オルガがこんな風にたくさん笑ってるの、久しぶりに見たな。
……いや、こういう風に笑ったのは、始めてかもしれない。
できればオルガが、ううん、オルガだけじゃなくてみんなが、こんな風にずっと、心のそこから笑ってくれたら良いんだけど。
「そういえば、話は変わるんだが、お前に聞きたいことがある」
「はいはい」
「お前、この間の戦いのとき、ニュータイプがどうのこうのって言ってたよな。ありゃなんだ?」
……ああ、そういえば、説明するのすっかり忘れていた。
必要ないと思ってたんだよなあ。言ってもどうせ信じてくれないだろうし。
「使ったことのないMWをミカや昭弘以上に動かしてたし、敵の行動も読んでいた節もある。普通の人間なら…阿頼耶識を入れてる俺らだって…できない芸当だ。お前は一体何者なんだ?」
でも、この間の戦闘で自分のことニュータイプって言っちゃったし、変な行動いっぱい取ってたもんなあ。
この世界にニュータイプや、それに似たコーディネーターやイノベイターはいないっぽいしね。
逆に、説明しないと変な疑いをかけられてしまうかも。
「私は人間よ。……人間でたくさん」
そう、付け加えてから、私はニュータイプについて説明を始めた。
ニュータイプとは、シャア・アズナブル(キャスバル・ダイクン)のパパ、ジオン・ズム・ダイクンが唱えた、パイロット適正のある、宇宙に適応したちょっとだけ進化してる人類のことだ。
一説によると、地球に住んでるとき、人の脳は半分休んでいて、宇宙に出ることによってその脳が少しだけ働き出してできることらしい。
ニュータイプとオールドタイプ……ニュータイプじゃない普通の人間のことね……と違う点は、
・空間認識力が高くなること。これはアラヤシキと一緒ね。
・未来がちょっとだけ見えるようになること。
・人の心、つまり感情とかが読めるようになること。
まあ、大体このくらいだろう。ぶっちゃけ私も詳しくは知らないし。
簡単にいうと、エスパーくらいに思ってくれたらいいよ。
「なるほど……ニュータイプ、か」
オルガは頭のなかで整理しているのだろうか、少し間をおいてから口を開いた。
「阿頼耶識と似てるな。体を強化したってところは、俺らとあまり変わらねえ。
パイロット能力だけを考えれば、阿頼耶識より使えるかもしれねえな」
一呼吸おいて、オルガは続けた。
「……が、諸刃の剣だな、そのニュータイプってのは。あの戦いのあとお前が倒れたのも、そのちからのせいなんだろ」
「うん」
さっきも言ったけど、ニュータイプは人の心や感情を読むことができる。宇宙に上がると特にそれが顕著だ。
でも、きちんとコントロールしないと、たくさんの感情の波に、私というひとつの意思が飲み込まれてしまう可能性がある。
実際、みんなの心を受け止めようとして精神破壊をしてしまった人もいる。
「で、お前はそのニュータイプってやつだと」
「ううん、私は作り物。研究所で色々体をいじくったんだ。私みたいのを『強化人間』っていうの」
「研究所で体を?」
私はこくりと頷いた。かれこれ一年くらいかなあ、あそこにいたの。
「俺らよりキツいだろ、それ。不自然に筋肉があるのも、その強化のせいなんだろ?」
ちなみに、ニュータイプになっても肉弾戦はそんなに強くはならないらしいよ。反応は少し早くなるけど。
私の場合はそこらへんも強化してもらったから、一般ピーポーには負けない自信があるけど。
「まあね。そうそう、体の強化のついでに顔もいじられたんだよね。そのおかげで、チヤホヤされるようになって超ラッキー!」
「はあ? お前、顔もいじられてんのか?」
「担当の博士に『不細工な顔のまま体をいじりたくない』って言われてね……」
「お、おう……。お前も相当苦労してんだな」
「正直とても傷つきました」
「だろうな」
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