青の破軍

3


ノーマルスーツに袖を通すのはいつ以来だろう。

MWに乗るときは着ていなかったし、前回のギャラルホルンとの戦闘でも着なかったから、もしかしたら、ここに来てから一回も袖を通して無かったかもしれない。それくらい、久しぶりな気がした。

どこの軍でも扱ってない、私専用のオリジナルのデザインをしているスーツ。といっても、ただ黒を基調に鮮やかな色をアクセントとしてちょっだけ使っている女性的なデザインの、そんなに大袈裟なものではない。ああでも、ミカちゃんたちのと一緒で、ヘルメットは顔全体が開くようになってるかな。

昔はバイクに乗るときに使ってるようなヘルメットを使っていたけど、視界が狭いし息苦しかったから、ガラス? 特殊なプラスチック? の部分をもっと広く改造してもらった。少し不格好だけど、かっこつけて死ぬとかくだらないしね。


とにかく、私はノーマルスーツに着替えて格納庫へ向かった。ここはブリッジと同じか、それ以上に慌ただしかった。どうやらMSだけじゃなくてMWも準備しているらしい。またオルガが面白そうなことを企んでいるんだな。


「ライド、整備は済んでるの?」


私の相棒には、ライドが取りついていた。振り向くライドはあまり休めていないらしく、目にうっすら熊ができていた。


「アイリンのMSは完璧に整備してる!」


よっぽど疲れているのか、八つ当たりぎみに怒鳴った。


「サンキュー! 助かるわ」


危ないからと、ガンダムから離れていったライドを尻目にコクピットに手をかけ乗り込もうとしたときだった。


「アイリン!」


後ろからライドが叫ぶように私を呼んだ。

振り替えると、ライドは至極真面目な顔して私を見ていた。


「この前みたいなすっげえやつ、頼む」

「おねーさんに任せなさいって」


上手くできただろうか? ぱちんとウインクして、今度こそコクピットに乗り込んだ。

送受席に乗り込み、諸々の電源を入れる。すると、少しだけコクピットに光が灯り前のモニターが上がってきた。


「MSを動かしてから目の色変えちゃって、まあ」


燃料やブースターの調子などをざっと確認して、もう一度だけヘルメットの首回りを整えた。


「それは私もおんなじか。オルガ、聞こえる?」


回線をブリッジの艦長席に繋げると、横に小さくオルガが現れた。


『聞こえている、なんだ』

「MS隊の指揮は私が取る。いい?」

『MS戦は俺らより場数踏んでるんだろ? こっちと上手く連係取れよ』

「わかってる」


メインカメラをオンにすると、真っ暗だったコクピット全体に回りの風景が写った。機体と備品でごちゃごちゃしている格納庫内。何十人もの子供たちがあちこちに漂っている。

いつでも出撃できるように準備を整えると、MSにがくんと衝撃が走った。誰かが相棒をカタパルトデッキへ移動させたらしい。

直立不動だった相棒はゆっくり向きをかえて、外へ向かって頭を突き出す形になった。カタパルトでの出撃はしょっちゅうだけど、この射出方法は始めてだな。

ブリッジのフミタンさんから通信が入り、GOサインがでた。どうやら私は二番手らしい。


「アイリン・レア、Hi-νガンダムで出る!」


ぐっとアクセルを踏んで操縦菅を前に押すと、Hi-νガンダムは外へ勢いよく射出された。体にかかるGを、歯を食いしばって堪える。

水泳のスタートのようにしばらくそのままの状態を維持して、速度が落ちかかって来たら体勢を整えた。

整えたところで既に出撃していた昭弘のグレイズを発見したので、その隣に着いた。

グレイズは以前ミカちゃんが決闘したおっさんの機体だ。確か、阿頼耶識システムも使えないんじゃなかったっけ?

しばらくしてミカちゃんのバルバトスも来た。

三人が並列になったところで、私は二人に通信を取った。


「昭弘は初陣かしら」

『足手まといにはならない』


モニターに、小さくヘルメットを被った昭弘が写った。いつも見たく無表情で、ただ太い眉を少しだけきゅっと寄せている。

顔にはあまり出ていないけど、声から少しだけ緊張しているっぽい。

慣れない機体で阿頼耶識も使えない初陣か。まあ、緊張しないほうが無理だろう。逆にここまで落ち着いているんだからすごいよ。


「信頼してるって。さて三日月、昭弘、私がMS隊の指揮は取る。三日月は残ってイサリビを守って。向こうから来るMSは2機と予測されるため、1人1機ずつ対応する。いい?」

『了解』

『おお』


指示を出し終えると、ミカちゃんはすぐに私たちから離れて後方のイサリビの方に向かった。

私は昭弘とそのまま真っ直ぐ暗い宇宙を突き進む。すると、今まで小さな点でしかなかった敵のMSをガンダムが捉えた。拡大して、どういったMSかも確認できる。

敵は2機、色違いだが同じ機種のようだ。恐らく、少しだけ前を進んでいるピンク色の方がリーダーだな。


「昭弘は青いMSをやって、アタシがピンクのMSの相手をする」

『了解』


昭弘のグレイズが私から離れて、青いMSの正面に着いた。


「さあて、今回はエレガントにいきましょうかね」


ピンク色のMSが武器を構えた。向こうも私を狙っている。ありがたいことに、相手も一対一で来るらしい。

私はビームサーベルを構え、出力を上げた。


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