※『どんな色に仕舞えばいいのか』後、赤司視点
※短い


なまえから着物を着る条件として提示された「自分も着物を着る」ことを承諾した赤司は、自室へと戻った。
普段通りの涼しい顔で部屋へ入り、しかし閉めた扉にもたれ掛かり、ずるずると座り込む。
急ぐ気は無かったのだ。大切に思っているからこそ、大事にしたかった。己の欲望をぶつけ、傷付けたくなかった。内に仕舞いこんだ汚い欲は、けれどいとも簡単に露呈した。
一人の男として見られていないのでは、と冷静さを欠いた己の未熟さに、赤司は自嘲する。
否、なまえとて決して赤司を男として見ていないわけではない。自分を見る瞳に宿る甘い感情は、確かに異性に対するそれだ。
いっそ拒絶された方がマシだったと、嘆息する。それはそれで自分にダメージが来るとはわかった上で、そう思わざるを得なかった。
なまえは赤司を拒まない。自身が入れ替わった時すら、驚いた顔の一つも見せずに寂しげに笑って自分の名を呼んだのだ。
先程のやり取りも、狡いと思った。自分ばかり先に進みたい本能を抑え込んでいるのに、それすらも受け入れた上で恥じらう彼女に、自身の余裕の無さを恥じ入るほか無かった。

なまえは聡い女性だ。人の意を汲み取り、包み込むような優しさを惜しげなく与えてくれる存在。母を失った隙間を埋めるように、なまえの存在は日に日に大きくなっていた。
中学に上がるまでは年齢と男女の成長期の差でなまえの方が身長も高く、幼い頃より共に育った赤司に対してなまえは弟のように接してきた。可愛い弟分が慕ってくるのを、けれど決して気持ちを無碍にしないように丁寧に受け入れてくれたなまえにやきもきした日々は、未だに苦く思い出の内に残っている。
なまえの身長を追い越す頃には男女の差も明確で、少しずつ自分を異性として意識するように仕向けた。けれど、同世代の恋人同士が初めに交わす「好き」の二文字は未だに口にしていない。
お互いほぼ確信に近い形で理解し合っている。それでも口にしないのは、変わらない二人が万が一にも変わることを恐れているからだった。

「……狡いのはどっちだ」

呟いた言葉は誰に届くでもなく、静かな部屋に落ちた。



(170712)