信心に疑る
「せんぱいせんぱいせんぱぁーい!!」
「水遁、」
「わぁぁ先輩それは勘弁っす!」
私はこの男が苦手だ。"無邪気なトビ"の裏にいる何かが見え隠れして、得体の知れないものを相手にしている気になるから。
それなのにこの男は私の何が気に入ったのか、毎日のように訪ねてきてはまとわりついて離れない。何なんだ一体。
「なまえせんぱーい、溜め息ばっかりついちゃ幸せが逃げちゃいますよ?」
「…誰のせいだと思ってんの…」
変な仮面のせいで顔は見えないが、トビはいつも楽しそうだ。溜め息ばかりの私とは正反対である。もっとも、溜め息の原因はトビ本人なのだけど。
はぁ、と本日何度目になるかわからない息を吐くと、トビは可愛らしく小首を傾げて私の顔を覗き込んできた。この面の下はどんな顔なんだろう。ぼんやりと考える。そういえば、トビの年齢も出身も、私は何も聞いたことがない。
「…トビって、今何歳なの?」
「あれれ?僕のこと気になっちゃうんですかー?」
「いや、言いたくないなら別にいいや」
やんわりと断ると、トビは「えー」とつまらなさそうに不満の声を上げた。ゆっさゆっさと肩を揺するトビは、私がトビよりも背の低い女だと言うことをわかっていないのだろうか。いい加減イラついてきた頃、パッと私から半歩距離を取ると、気味の悪い含み笑いをこぼし始めた。なにこの人怖い。
トビとの距離を取ろうと後ずさると、間合いを詰めるように近寄ってくる。ジリジリと後退していくと、トン、と背中に壁を感じた。たらりと頬を落ちる汗を感じる私とは対照的に、トビは酷く楽しげな様子だった。
「後ろに壁だなんて、お約束ですねえ」
弾むような調子の声に、何故か恐怖を感じる。印を結ぶなり殴り飛ばすなりすればいいと、頭ではわかっているのに体が動かない。
固まる私を見下ろしながら、トビは私の耳元に顔を寄せてこう言った。
「もうすぐ、わかりますよ」
何が、と聞こうとしたのに、声が出なかった。ぞくりと背が粟立つ。得体の知れない者への恐怖と、それから、どこか懐かしさを感じるチャクラ。似ているけれど、でも、違う。
「…あなた、誰なの?」
「誰って、僕は暁のトビ、ですよ?」
くすくすと楽しそうに笑うトビは、もういつもの“明るい後輩”であるトビに戻っている。それがまた警戒心を煽り、距離を取り、いつでも動けるようトビの動きに集中する。
「…僕はあなたに興味があるんですよ」
「私に?」
「見知らぬ未来に輪廻転生した医神と謳われた一族、なかなか興味を惹かれるでしょう?」
頭で考えるより早く、クナイを投げていた。素早く、至近距離で投げたそれは、しかしトビには当たらない。まるで存在そのものがそこにないかのように、すり抜けてしまった。トビの能力を忘れていた。思わず舌打ちを零すと、トビはケラケラと笑った。
「なまえさんが舌打ちだなんて、珍しいですねぇ」
「……あなた、どこまで知っているの?」
「あぁ、これは全部僕の推測ですよ。でもまぁ、ちょっと調べて憶測を重ねると大体わかっちゃいますよねぇ。あなたも薄々わかってて、そこまで必死に隠してないんじゃないですか?」
悔しいが、全くその通りだった。現にイタチくんにはあっさり嘘を見抜かれて、隠す気があったのかと笑われてしまったこともあった。
「心配しなくても、僕はなまえさんを気に入ってるんです。悪いようにはしませんよ」
「誰もそんな心配してないし、あなたに捕まるくらいなら逃げる」
投げやりにそう言えば、トビは「できるものなら」と笑った。
疑る=うたぐる
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