空漠に望む


突然頭に何かが覆いかぶさり、痛みこそ少ないもののじわじわとチャクラが吸い取られていくのを感じた。頭は動かさずに手を背に回し感触を確認すると、予想通りのトゲトゲに触れ、息を吐く。されるがままにじっとしていると、上から呆れたような声音が降ってきた。

「こんな所にいたんですか」
「わーい、鬼鮫さんだー」

顔を上げて声の主を視界に捉えるのと、頭にかぶりつく物が離れるのは同時だった。解放されて初めて振り返ると、呆れたような困ったような顔をした鬼鮫さんが私を見下ろしていた。手にはつい先程まで私のチャクラを食べていた鮫肌が収められている。

「貴女はいつもふらふらと何処へ行くんですか」
「探究心ですよ、探究心」
「探究心、ねぇ」

鬼鮫さんの視線は私の横に転がる団子の串に注がれている。鮫にそっくりな鋭い眼光を宿す瞳は、しかし今は心底呆れて半目になっていた。
より美味しい甘味を求めるのも立派な探究心です、と言えば鬼鮫さんは肩を竦めて苦笑する。やることもない現世を持て余してる私の娯楽は専ら甘味処巡りで、残念ながら男所帯の暁ではイタチくんと小南くらいしかその楽しみを共有できる人はいない。

「それに鬼鮫さん、絶対私のこと見つけてくれるんですもん」

正確には私のチャクラを感知する鮫肌が見つけてくれるのだけれど。それでも毎回探しては連れ戻してくれるのは鬼鮫さんだった。
戦闘集団である暁の中でも比較的紳士的で柔らかな物腰の彼を、私は一方的に慕っている。気遣いが出来て私の悪ノリにも付き合ってくれる意外とノリの良い所が新鮮で、つい彼には甘えてしまう。
こうして探し出してくれるのが嬉しくてフラフラしていると言っても過言ではないかもしれない。

「毎回探すこっちの身にもなってくれませんかねぇ」
「それはすみません。鬼鮫さん私に甘いから、つい甘えちゃうんです」
「……本当に貴女は変わった人だ」

こんな仲間殺しに懐くなんて。吐き捨てるような言葉にハッとした。読めない表情が、いつぞやのイタチくんと重なる。
イタチくんと鬼鮫さんは似ている。二人の生来の気質はまるで違うのに、仲間を、一族を殺した自分自身を嗤う時だけ、ほんの少しの悲嘆の念を感じさせた。
仲間や一族というものを持たない私には、決して感じることの出来ない感情なのだと思う。だから彼らの気持ちに寄り添うことは出来ない。
目を閉じ、考える。深く息を吸い、吐き出すのと共に目を開き、鬼鮫さんを見上げる。

「私は誰の味方でも、仲間でも、家族でもありません。でも同時に、誰にとっても平等な存在でいたいと思います」

抱えるものを共有し、分かち合うことは出来ない。けれどイタチくんの何も考えずに共に甘味を楽しむことができる相手になるように、鬼鮫さんにとっても気の抜ける存在になりたいと願う。彼らがそれを必要としてないとしても、私のようなイレギュラーな存在を不要だと突き放されるその日まで。何もすることのない現世でも、そう思うまでにはこの組織に愛着をもっていた。

「まあ、今更この世に未練もないので、最悪いつ死んでもいいって心持ちですしね。どうせ殺されるなら好きな人に殺されたいじゃないですか」
「なかなか酷なことを言いますねぇ……殺す側の身にもなってくださいよ」

おどけて言う私に、本日何度目かわからない苦笑いを浮かべた鬼鮫さんは、それでも満更でもなさそうだと都合良く捉えて置くことにした。
完全に気を緩めていたら不意に腕を引かれ、首に鋭い痛みが走る。いつもは随分と高い位置にある鬼鮫さんの頭が、目の前にあった。
噛み付かれたのだと気が付いた頃には、既に鬼鮫さんは半歩ほどの距離を空けて佇んでいた。

「痛いんですけど」
「それは失礼。けれど、男所帯なんですから無防備は感心しませんねぇ」

血が出るほどではないものの、じんじんと痛む首元に顔を顰めると、鬼鮫さんは愉快そうに口元を歪めて笑った。

「面と向かって好きな人だなんて言われたんですから、油断してると取って食いますよ」




(170513)