樹木に集う
「久し振りだな、なまえ」
「柱間さん!お久しぶりですね」
暇をもて余していた昼下がり、今日一番の来客は千手一族の頭領、柱間さんだった。落ち葉を掃く手を止め柱間さんに近付くと、柔和な笑みを浮かべながらその大きな手を私の頭に乗せた。ゆるゆると撫でられるままに目を細める。常連であり兄のような存在の柱間さんは、特に用のない日でも一人で山麓に住む私を心配して訪れてくれるのだ。
「マダラは相変わらずか?」
「悲しいことに相変わらず無駄に元気に生きていやがりますよ」
二日と開けて来ない日はない、と顔をしかめて言えば、柱間さんは吹き出すように笑い出した。柱間さんがこんな風に笑うなんて珍しい。思わずお茶を用意する手を止めて柱間さんを見ていると、ぽんぽんと頭を撫でられた。柱間さんの癖なのか、会うたびに一度はやられるこの動作は、妙に安心感を与えてくれる。
「なまえはマダラが嫌いか?」
優しく問われた内容は、しかし決して簡単ではないもので。むう、と小さく唸り答えを探す。人の心情とは複雑なもので、的確な言葉を探すのはひどく困難だ。
「ううん、難しいですね」
「意外だな、なまえのことだから嫌いだと即答すると思ったんだが」
本当に意外そうな顔をしている柱間さんを見て、思わず苦笑する。やっぱりそう思われてるんだなぁ。確かに少し、いや大分扱いが雑だと自覚はしていたが、第三者から言われると改めて認識してしまい、癪ではあるがマダラに対してほんの少し申し訳なくなった。
「嫌いは嫌いですよ」
図々しいし鬱陶しいし人の話聞かないし、挙げたらきりがない。マダラを貶す言葉を言い出したら止まらない自信がある。宥めるようにまぁまぁ、と言う柱間さんに表情を和らげると、続けて言葉を紡ぐ。
「マダラが素直になったら、もっと優しくしてあげようとは思ってます」
「なんだ、気付いてたのか?」
「最初は自意識過剰かと思ったんですけどね」
言葉にすると思った以上に恥ずかしく、顔が熱くなるのを感じた。しかし、柱間さんの反応からするに、どうやら本当に自意識過剰なわけではないようだった。その事実がまたこそばゆくて、恥ずかしい。珍しく照れた私を、柱間さんは微笑ましそうに見ていた。
「でもまぁ、あれだけ足繁く通われてたら、気付かないわけにもいかないですよね」
「そうだな、戦の時すらお前の話をしているぞ」
「何なのあの人馬鹿なの…」
だからいちいち傷を負って帰ってくるのか。馬鹿なのか。そうか、馬鹿なのか。小さく痛む頭を抱えながらため息をつく。顔が熱いのは、射し込む太陽な熱のせいだ。
「まぁ、あいつなりの好意の示し方なんだろう」
戦一辺倒だったのだから仕方ない。そう言って笑う柱間さん。一族を束ねる若き頭領、というのは同じなのにどうしてこうも違うんだろうか。
「なまえもいずれ気持ちの整理もつくだろう。後悔のないようにな」
「そうです、ね」
それから他愛もない世間話をして、柱間さんは帰っていった。彼も多忙だろうに、こうして会いに来てくれるのだから頭が下がる。同時にそれほど心配されているのかと思うと、いい年して情けないなぁと不甲斐ない自分が悲しい。同じ年頃の女は皆、結婚して子を成していてもおかしくないのだ。
「結婚…」
不意に憎らしい顔が浮かび、慌てて首を振った。
今日も、いい天気だ。