カイリューにガンテツを任せ、なまえは井戸の奥へと歩を進めた。帰りたいの四文字が頭に浮かぶのを振り切るように、先程ガンテツの言っていた少年について考える。
なまえがヤドンの井戸に着く前に、ガンテツとロケット団が井戸に落ちるのを目撃した少年がいたらしい。ポケモンを連れたその少年は井戸に落ちた二人を追って井戸へ入り、ガンテツがヤドンが奥にいると言うのを聞くやいなや洞窟の奥へと走っていったのだと言う。
旅を始めたばかりらしい少年トレーナーを放っておくわけにはいかない。つい懐かしい昔馴染みの旅立ちに重ねてしまい、その想いは強くなる。
思わず走り出したなまえは、すぐに見えたハイパーボールのようなカラーリングを身に纏った少年を見つけ、立ち止まった。と同時に、黒い服に赤いRの文字を付けた人間がわらわらと周りに集まる。
ぐるりと2人を囲むように並ぶロケット団は、既に勝利を確信しているようにニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。思ったより厄介なことに巻き込まれたことを悟ったなまえは、腰のベルトに付けたボールに手を添えながら人知れず溜息を吐く。そしてそれは隣に経つ少年、ヒビキとて同じ心境だった。
「えーと、お姉さんは?」
「トレーナーのなまえよ。詳しい自己紹介は」
「コイツらを倒してから、ですね。オレはヒビキって言います」
「ヒビキくんね。ここは私が片付けるから、ヒビキくんは奥にいるはずのリーダーを探して」
すぐに追いつくから、と眼前のロケット団を見据えて言うなまえに、ヒビキは少なからず驚いた。ざっと数えても10人程はいる敵をたった1人で倒すつもりかと反論しようとした口を、けれど彼女が慣れた手つきでボールから出した手持ちのポケモンを見て閉ざした。
敵に囲まれても動じず、事態の収束に恐らく一番効率の良い方法を選ぶ洞察力、そして何より旅を始めたばかりのヒビキでもわかる程鍛えられた手持ち達に、彼女の言葉は信用に足ると感じた。ヒビキはなまえに向けて大きく頷くと、隣に控えるマグマラシと共に、したっぱの間をすり抜け奥へと駆け出した。
「ふんっお子ちゃま1人逃がして正義の味方のつもり……」
「ラプラス、なみのり!デンリュウ、波に向かってかみなり!エーフィ、ドガース達にサイコキネシス!」
「最後まで聞いて!!」
したっぱのセリフを聞きもせず、なまえは一気に指示を下す。長年連れ添ってきたパートナー達に余計な言葉は無用。技名を言ったか言わないかのタイミングで各々が技を繰り出すと、したっぱ達のーおそらく近くで捕まえてきたばかりであろう、見るからに戦い慣れていないーコラッタやズバットはなすすべもなく地に倒れ伏した。なまえはラプラス達を素早くボールに戻すと、倒れたコラッタ達やしたっぱに目もくれずに、ヒビキの向かった奥へと走り出した。
ヒビキと別れてから僅か五分足らずの出来事に、残されたしたっぱ達はただただ呆然と立ち尽くすほかなかった。
***
尻尾を切り取られたヤドンたちに、なまえは眉根を寄せた。彼らの尻尾は再生するとは言え、突然連れ去り身勝手な理由で尻尾を切り取るなど、およそ人の血が流れているとは思えない残虐な行為だった。
「どこの街にも、わたしたちに逆らう奴はいるのですねぇ……」
苦々しげに呟いた男は、苛立ちを隠しもせずに攻撃の手を強める。ヒビキのメリープは相性だけで考えれば有利だが、ズバットの素早い動きと超音波で撹乱され押され気味だ。
なまえはそっとボールに手をかけるが、敵を見据えるヒビキの手がその先の動きを制した。予想よりずっと冷静なヒビキに驚いたが、意を汲みとると手を下ろす。次の瞬間、的確な指示でズバットに電気ショックを命中させたメリープになまえから思わず笑みがこぼれた。
「くっ……子供だと侮っていたら何ということ……」
効果は抜群、急所に当たったズバットは倒れ、ボールに戻っていく。どうやらズバットが最後の一体だったようだ。不快そうに顔を歪めヒビキとなまえを睨む男は、プライドが高いのだろう。負けてもなお優位に立とうと嘲笑みを浮かべた。
「……ロケット団は解散したはずでしょう。何故、」
「確かに我らロケット団は、三年前に解散しました。
しかしこうして地下に潜り活動を続けていたのです。貴方がたが邪魔をしても止められやしないのですよ!」
「……!」
「危ない!」
いつの間にか男の後ろに控えていたドガースが、男が声を張り上げた瞬間黒いガスを撒き散らした。なまえはラプラスをボールから出し神秘の守りを作り出す間に、前方にいるヒビキの腕を強く引き寄せる。咄嗟のことで引かれるまま後ろになだれ込んだヒビキを抱えながら目を凝らすが、黒いモヤが広がるばかりで何も見えなかった。
毒ガスかと警戒したが、どうやらただの煙幕らしい。翼で風を起こし吹き飛ばせるカイリューかピジョットを連れてくるべきだったと、なまえは小さく舌打ちをもらした。
「これから何が起きるか、怯えながら待っていなさい!」
離れた場所から聞こえる捨て台詞に、出来ることなら二度と関わりたくないと思う。どうかこのまま活動を休止してくれとなまえが祈る横で、ヒビキはボールからピジョンを出し、煙幕を吹き飛ばす。黒いモヤが晴れると、残されたのは尻尾を切られたヤドン達だった。
(170415)