「何だか変なことに巻き込まれちゃったね」
「そう、ですね」
足元に付着した砂埃を払いヒビキに声をかける。少し歯切れ悪く返ってきた答えに顔を上げると、喜怒哀楽どれともつかない難しい顔をしたヒビキと目が合った。すぐに目を逸らされ、なまえははてと首を傾げる。
彼との短いやりとりで、何か不快にさせることがあっただろうか考え、思い当たるのは先程のバトル中に手を出そうとしたことだった。いくら相手が何を仕掛けてくるかわからないロケット団でも、確かに早合点だった。それを謝罪すると、けれどヒビキはそれに関して謝られると思っていなかったのか、目を瞬かせる。
「いや、別に……それよりなまえさんは大丈夫でしたか?」
「うん、ロケット団よりなみのりを被った野生のイシツブテ達の方が手強かった」
そう、なまえがロケット団を一掃したのは数分足らずだったわりにヒビキに追いつくのが遅かったのは、面倒だからと全体攻撃のなみのりをしたことによって被害を被り怒り狂った野生のイシツブテ達に襲われていたからだった。何の非もないイシツブテを片っ端から攻撃するわけにもいかず、バッグに入れっぱなしだったポロックや携帯用のポケモンフーズをばらまいて逃げてきたのだ。恥ずかしそうに苦笑するなまえに、ヒビキはやっと小さく笑みを零した。
小さな頃から夢見ていたポケモンとの旅は始まったばかりで、わけのわからない集団に邪魔をされるのは御免だし、つい気になって井戸に潜り込んだのを若干後悔していた時。
正直目を奪われた。名乗り合った時は自分同様、巻き込まれた面倒事に嘆息していたのに、ボールに手をかけ敵に向かいあった瞬間の凛とした表情、ボールから飛び出した鍛え上げられたパートナー達。TVを観て憧れたようなトレーナーだった。
自分一人でもロケット団を退けられると思っていたヒビキは、嬉しいような悔しいような複雑な想いを噛み締め、振り払うようにランスとのバトルに臨んだ。下っ端を相手にせず温存していたのもあり、バトルの出来は上々だったと思う。
けれどその後、ドガースの撒いた煙に反応がとれずになまえに腕を引かれ守られたことが、少年のプライドに傷をつけた。
「ヒビキくん?」
「……なまえさんは、強いんですか?」
「!……そうだね、強いと思う」
君よりも。そう言ったなまえは、先程見た凛とした強さの滲む笑みを浮かべていた。どこか挑戦的なそれは、決して馬鹿にしたものではなく、寧ろヒビキを一人のトレーナーと認めているからこそ本気のバトルを求めている表情だった。
「すぐに追いつきますから」
ギュッと拳を握り締め、ヒビキはしっかりとなまえを見据える。一瞬驚いたように目を丸くしたなまえは、すぐに迎え撃つような好戦的な笑みを返した。
***
数時間も経っていない筈なのに、井戸から出ると陽の光の眩しさに思わず目が眩む。なまえとヒビキはしぱしぱと目を瞬かせ、早々に自宅に戻ったガンテツの元へと向かいながら、改めて自己紹介を交わした。
「へー、ヒビキくん、ワカバタウン出身なんだ」
「なまえさんはカントーの人だったんですね」
お互いの出身やトレーナー歴を話す内に、何となくまとわりついていたぎこちなさが解れていくようだった。
「オーキド博士に図鑑を託されたんだ!通りですセンスがあるわけだわ」
「ありがとう、ございます」
面と向かって好評価をされ、照れた顔を見られないようにそっぽを向くヒビキに、なまえは昔馴染みの少年達を思い起こす。なまえよりも数年遅れて旅立った二人は、今ではなまえと互角以上の実力を持つ優秀なトレーナーだ。
隣を歩くヒビキも、近い将来必ず誰もが認める強いトレーナーになる。そう確信めいた直感は、けれどなかなか外れないことをなまえは知っていた。今より一回りもふた周りも強くなった彼とのバトルが楽しみだと、自然と緩む頬は隠せそうもない。
お礼の特製ボールを受け取り、世間話もそこそこにガンテツの家を後にすると、ヒワダジムに挑むと言うヒビキとはそこで別れた。駆け出す小さな背中は、あっという間に自分を追い越すんだろうなと少しの寂寥感と大きな期待がなまえの胸が熱くする。トレーナーとして彼のように旅に出たのはもう随分前のことだというのに、まだまだ自分もトレーナーらしい好戦的な部分は現役らしい。クスリと漏れた笑みを、近くにいたヤドンは「やぁん?」と返した。
「さて、どうしようかな」
思い返せばたまにはのんびり実家を堪能しようと帰省してきたのに、巻き込まれるがままに随分と遠くまで来てしまった。そう言えば朝食も食べていない。思い出すと急激にお腹が空いてきて、一先ず休憩しようとポケモンセンターに向かった。
センターに併設されているカフェでサンドイッチとサラダ、アイスコーヒー、それからカイリュー達のポケモンフーズを購入し、天気も良いからと外へ出た時だった。
入れ違うようにセンターに入る赤髪の少年に、目を惹かれる。ヒビキと同じ年の頃だろうか。けれど、整った顔に滲む表情はヒビキとは真逆の憎悪に塗れたものだった。年不相応なその顔が、ドガースの撒いた煙幕のように胸の内に渦巻いた。
(170416)