コガネシティ

コガネデパートの屋上でサイコソーダを啜り、地上を行き交う人々を眺める。慌ただしく一日のスタートを切ったものの、元々予定のないなまえは早々に帰宅するのも勿体なく思い、気まぐれにコガネシティを訪れていた。
特に用があった訳では無い。ジョウト一栄えているここなら、暇潰しのネタには事欠かないと考えてのことだったが、現状なまえは特にやることも思い浮かばず、ただ手持ち無沙汰にポケギアを触っていた。

「近い人だとマツバ……は修行かな。と言うかジムリーダーは皆忙しいか」

ポケギアに登録された連絡リストを辿り、そう言えばこちらに帰ってきたことを誰にも報告してないことに気が付き、溜息を零す。
項垂れるなまえの視界に、ぴょこりと揺れるお下げが映ったのはその時だった。なまえが頭を上げると同時に、「あー!」と言う声と共に腹部に衝撃が走った。

「やっぱりなまえさんだ!!」
「コトネ、ちゃん?」

バッと顔を上げ目を輝かす少女に、なまえは目を瞬かせる。大きな赤いリボンがついた白いキャスケットに、下で二つに結った外に跳ねる茶色い髪。なまえの名を呼んだと言うことは知り合いだろう。最後に会った時よりも大きくなった少女の名を呟くと、少女─コトネは満面の笑みを浮かべ、大きく頷いた。

「ヒビキくんから凄く強いトレーナーに会ったって聞いて、もしかしてなまえさんじゃないかなって思ったんです!」
「ああ、それじゃあ前に話してた幼馴染みってヒビキくんのことなのね」

何でもヒビキと幼馴染みらしい彼女は、ヒビキの話を聞いてなまえのことだと思い、よくなまえと共に行ったコガネシティをさ迷っていたのだという。
話しながらなまえは自動販売機からサイコソーダをもう一本購入し、コトネに手渡す。空いているベンチに並んで座ると、コトネは美味しそうにソーダを飲みながら、しかし眉根を寄せて口を開いた。

「ロケット団と戦ったって聞いたんですけど、大丈夫でしたか?」
「あー、うん。私達は大丈夫だったけど、ロケット団はまだ活動してるみたいだから、コトネちゃんも気を付けてね」

コトネはヒビキのようにポケモンを連れて旅には出ていない。なまえの知る限りマリルとチコリータが手持ちに居たはずだが、ウツギ博士の助手としてフィールドワークに出るために連れているだけらしい。バトルは必要最低限、野生のポケモンから逃げる時くらいしかしないのだという。

「……私も、トレーナーとしての才能があったらなぁ」

なまえはバトルは不得手のコトネを心配してそう伝えたが、コトネは近しい二人との違いに劣等感を抱いたのかソーダの缶を握り締めて俯いた。
コトネと同い年のヒビキは確かに生まれつきの『バトルの才能』があるだろう。けれど、なまえは単にトレーナーとしてのキャリアが長い為に多くの経験があるだけで、才能だけで見ればヒビキやジムリーダー、四天王と言ったその道のスペシャリストには及ばない。
かつて何度も感じた劣等感は、今コトネが抱えているものに通じるものがある。

「トレーナーの才能なんてバトルだけじゃないよ。コトネちゃんみたいな一匹一匹と向かい合って接するのも、大事なトレーナーの在り方よ」

トレーナーとして大事なのはバトルに強いことではなくて、パートナーとしてポケモンとしっかり向き合い信頼関係を築くことだと、なまえはやんわり、けれどハッキリとコトネに告げた。
驚いて顔を上げるコトネに微笑み、コトネの腰にある紅白のボールを見やる。ボールの中ではチコリータとマリルが、コトネとの外出を喜びニコニコと笑っていた。

「それに、ウツギ博士もコトネちゃんが助手になってから研究が捗るって凄く褒めてたわ」

なまえがジョウト地方の図鑑を託されたのは随分前のことだったが、今でもウツギ博士とは時々連絡を取り合っていた。実家に帰省する少し前に別の用事でやり取りした際に、最近助手になったコトネの話を嬉しそうにしていたのだ。
コトネはなまえが優しいが、根拠なく褒めることをしない人間であることを知っていたために、嬉しさで顔が紅潮するのを感じた。ぽわぽわと胸にじんわり広がる暖かさが、むず痒い。

「そう言えばコトネちゃんは、今日はたまたまコガネにいたの?」
「昨日からおばあちゃんとおじいちゃんの手伝いをしに来てたんです。だからヒビキくんの話を聞いて、ちょうどいいなって思って」

昔から慕ってくれる妹のような存在が「会いたくて探しに来ちゃいました」とはにかむ姿に、なまえも自然と頬が緩む。
その後お互いの近況を話し、まだ育て屋さんの手伝いがあるというコトネとは名残惜しくも別れることになった。
別れ際に最近買ったと言うポケギアの番号を交換し、なまえもコトネもほくほくとした気持ちでポケギアを鞄に仕舞う。

「なまえさん、ありがとう!まだ暫くこっちにいるなら、また落ち着いてお話しましょうね!」
「うん、私も連絡するね」

元気よく手を振りながら雑踏に吸い込まれていくコトネの背を見送り、なまえは振っていた手を下ろした。
ヒビキとコトネと言う新米トレーナーに立て続けに出会ったこともあり、なまえは年甲斐もなく言い様のない高揚感に胸が高鳴るのを感じていた。
今更ジムを回ったり図鑑を埋めたり、明確な目的はない。けれど、コトネ達の年の頃旅をしたジョウトをもう一度回ってみようと思った。
そうと決まれば、元より旅を住処としてきたなまえの足取りは軽い。一先ず旧友のいるエンジュシティに向かうことに決め、コガネシティを後にした。



(170515)