好き、なんて一丁前に自覚はしたけれど。まあはたけさんには彼女がいるわけで、私なんかが叶うはずもなく。 「はたけさーん」 「んー?」 「彼女、何歳ですかー?」 「何歳だろうねえ」 「…またそれですか」 「お前も同じ質問ばっか飽きないね」 「だってそれしかやることないんですもん!!」 もう足枷たちで遊ぶのも、寝るのも、全て飽きた。だってもうこの生活2週間ぐらいは経ってる。気が狂わないのははたけさんのおかげだが、そろそろプチンと切れそうな気がして。だからこういうので誤魔化そうと必死なのだ。それを感じ取ってか、たまに彼はこういった質問も返答してくれるようになったが…。 「お前と近いんじゃない?」 「ほらモテてんじゃん…」 「なーに」 「自分のことおじさんとか言ってるけど!まだ俺はいけるとか思ってるでしょ!!」 「なんでそうなるかなぁ…。」 「ロリコン!変態!長身!イケメン!!」 「…だんだん褒められてるね」 「うっさいですよもう」 「ま、何歳かは忘れたな!」 「出た…」 ハハハ、と笑われてもこちとらため息返ししか出来ない。この、なんとも言えない気遣いが切なくて。私はガキ臭いが、きっと彼女は大人びた美人なんだろうな。はたけさんに似合うような、そんな…。 「どんな人なんですか、」 「んー?」 「彼女さん」 「…聞いて楽しいの?」 「……まぁ。少しは」 「少し、ね…。んー、別に普通の子だよ。」 「どんな所が好きなんですか?」 「そうだな…、一歩下がって俺の後ろをついて来てくれる感じ、とかかな」 「……」 自分が傷付くと分かっていて、どうして問うてしまうのか。馬鹿だと思う。でも、それ以上に好きな人を知りたいと思うのだ。ただ、それだけで。でも、それだけが痛い。手足に付けられた重りより、こっちの方が数百倍も。 「私と、真逆ですね」 「んー、そうかもしんないな」 「……そ、こはフォローするとこじゃないですか!?」 「いや、だって静かな名前なんて名前じゃないでしょ。」 「また褒められてない!」 「俺は元気な名前が良いと思うよ。自分に正直な所とかさ。」 「…そういうの要らないです」 ワガママ言わないの、と笑ってくれるだけ幸せだと思わなければならない。でも、人間とは欲張りで、今ある幸せより上を上を、と目指してしまう。…滑稽だ。簡単に好きになったくせに。もしかしたらそれも、刷り込みなのだろうか。…あぁ、こんなことを考えるなんて。ここの生活の限界が近いのかもしれない。 「どうした?」 「…いえ」 さらっと呼び捨てにしてくれたこととか、嬉しいのに、麻痺していく。いつまで私はここに居ればいいのだろう。出れる気配もない。外に出て何がしたい、とかいう希望すら持てない。はたけさんも人のもので、任務というだけでここにいる。…なんだ。よく考えたら全然面白くないじゃないか。 「…いつ、」 「え?」 「いつになったら、私はここから出れますか」 「…」 「もう、2週間は経ってますよね。私、一生このままですか」 「…一生は、ないよ」 「本当に!?言い切れますか!?私が外の光を浴びる日がくるって!確約できるんですか!?」 「…」 ダメだ。壊れていく。楽しかったはずなのに。望んでいたトリップだったはずなのに。どうして、夢小説通りになってくれないんだ。私って生きてる意味はあるのか?何のために?誰の、ために…?思考が滑り落ちる程、よくない方向へ嵌っていく。制止しても、もう、意味がないほど。 「、落ち着いて」 「落ち着いたらここから出れますか!?ねえ!!」 「名前」 「…!」 ふわり、と抱き締められた。壊れていく心を、やさしく止めてくれるような、治してくれるような、そんな温もりで。自然と、頭に昇った血が冷めていく音がする。久々に感じた他人の体温は、悲しいぐらい心地良かった。鉄格子越しにしか見たことのなかったはたけさんは、こんなにも温かかったんだね。遠くで意識が陥没していくことを、拒むこともなかった。 ← |