添い寝事件から謎に吹っ切れた私は、あの時のように暴れることもなく、無事(?)に幽閉3週間目を迎えていたらしい。最近は専ら、チャクラを練って術を使いたいので訓練。にハマっている。

「はたけさぁん……」
「ハイハイ。もう諦めなって」
「センスないからって!!ないけども…。」
「お前は、生きるために必要な最低限のチャクラしかないんだよ。だから仕方ないと思いなさい」
「いやだ!せめて分身の術ぐらい…!」

数日前にはたけさんに教えてもらった、チャクラを練る方法を実践する。どれだけ精神統一して指先に意識を集めても、教えてもらった印を組んでも発動しないソレ。……やっぱり元はチャクラもねぇ時代から来たからですか?え?お?

「もーちょっとだと…思うんですよ……」
「…根拠は?」
「勘です!!」
「アテになんない勘だね」
「もう!!お口チャックしてください!!」
「はいはい…」

ぜってー見返してやるってばよ!!(ナルト風)…なんて心に強く思ったはずだったのだが。15分後。

「………はたけさぁん……、」
「ほらやっぱりね。」
「ちっ…畜生…!ぐうの音もでねぇ…!」
「ハハハ!ま、諦めなさいよ。」
「お願いします!せめて…せめてコツを…!!」
「そうだね…。まあ、今のままじゃ難しいってことかな。分身の術ぐらいって言うけど、ちゃんとアカデミーで学ばないとな。」

至って真面目で当たり前の返答に項垂れた。そんなもん分かってますやい。でももう仕方ないじゃんよ。こちとら25歳だぞ!?今からだなんて不可能じゃい!!不貞腐れて手枷を投げると、重さを舐めていたせいで突き指を食らった。爪が割れて少量の血が見えた。

「痛……。」
「もー、何やってんの?見せて。」
「いえ、これくらいですし」

立ち上がって近寄って来るはたけさんに、大丈夫です。と呟く。私も昔からこの世界にいて、アカデミーとか通ってたらなぁ…。もっと違う人生だったろうな、なんて口を尖らせる。印が完璧でも、身体がついてこないんじゃあな…。

年相応には程遠いが、不貞腐れのヤケクソで印を結んだ。その瞬間、ボフッ!と隣に何かが出てきた。

「………え?」
「……!」

まさか出てきたのは私だった。……え?どうした?まさかのドンデン返しで分身の術出来ちゃったのか!?え!?目を点にしてもう一人の自分を見つめた。…ら、バサッと何かが落ちる音ではたけさんが居たことに気付いた。イチャパラが落ちたらしい。そこで目が合って、さらに目を見開いた彼がいた。

「お前………、……」
「え?」
「…いや、奇跡だと思ってな」
「え……え、え!出来てる!?私天才だったの!?」
「…それはないと思うけど。偶然ってとこか、」
「偶然でもすごくないですか!?え、え私ありがとう…!!」

分身の私に謎にお礼を言うと、バフッと消えてしまった。ああ…まだ話したかったよ…。私の奇跡の塊…。でもそこで悪知恵が働いて、すぐ顔を顰めた。

「はたけさん」
「ん?」
「私…こうなる前は忍だったんでしょうか」
「どうだろうね。まあ、その可能性もなくはない…かな」
「でももしそうだとしたら、戸籍がどこの里にもないってことは…私、あんまり良い忍じゃなかったのかな、」

なんてシュンとした私に向けられるはたけさんのどうしようもない視線に、ゾクゾクしたなんて言えない。だって私記憶喪失とか嘘だし。忍とか200%無いし。戸籍ないのはトリップしてきたからだし。ただ悲劇のヒロインぶりたいだけです。ええはい。

そんなくっそ汚い思考の私も知らずに、はたけさんは気付いたら私の目の前にいた。ポン、と頭に手を置いて。

「…!!ちょ…、ここ牢屋の中「その"もし"が本当なら、忘れて良かったんじゃない?」
「!」
「もしかしたら、あんまり良い記憶じゃないから、神様が名前から盗ってくれたのかもね。記憶。」

まあ、本当にそうか分からないんだから、気にし過ぎないことだな。と言ってワシャワシャと頭を撫でてくれるものだから、望んだ夢小説展開過ぎて心臓がキュウキュウ言ってます。抱き締めたい欲望を抑えて、ここ牢屋の中です監視員さん、と反論したくなるのは胸キュンし過ぎたせいだと思う。

「あー…。監視員だから何でもアリ、ってことだな!」
「…めちゃくちゃ過ぎです。それ」
「もう2回目だしね」
「そう2回目…、って、やっぱりあの添い寝事件…っ!」
「ハハハ」

もう!!と怒る私を宥めてくれるはたけさん。こんなやり取りがすごい幸せなんです、なんて私と同じことを思ってくれていたら、いいなぁ。と漠然と思っていた。はたけさんが一瞬、眉を潜めたことに気付けなかったから。