名前が寝たことを確認して、ナルトの元へ向かう。一日の最後に行う報告の為だ。最近は影分身を彼女の側に置いていない。あの事件以来、かなり精神状態が落ち着いてきているからだ。それをやっと解決したところで、またとなく降ってきたソレ達。

「……せんせ、」

名前がパニックになった夜。隣で寝ていて聞いた言葉。本人は俺が起きているとは気付いてないようだが。…先生、とは。まるでナルト達に呼ばれる時のような、そんな感じで。まるで、…俺があいつらにそう呼ばれていたことを知っていて、自分も同じく呼んでいる、かのように。

「……深読み、か?」

小さくその言葉が漏れるぐらい、迷っていた。もしかしたら昔の俺達を知っていたかもしれない名前。けれど木の葉にも、他の里にも戸籍がない。やはりどこかの里のスパイなのか?と思ってしまうようになったのは、先程のことだ。

分身の術ができた時の、名前だ。

「………」

そもそも分身の術ができることも不思議なのだ。あいつには必要最低限のチャクラしかない。それに、数日練習をしていたのを見ていたが、出来る気配は全くなかった。なのに急に完璧に仕上げ、その後の、名前は。

――――色が、無かったのだ。目に。透明と、呼ぶべきなのか分からない。本人は自覚がないようだったが、それはすぐに戻っていた。

確実に、何かある。そう、確信してしまった。スパイなのか、何が目的なのか。…でもそれなら、拷問時に必ず分かるはずなのだ。でも、結果は白。

「……どうしたもんかね」

溜息が出たのは無意識だ。悩むことすら普通は有り得ないと思う。普通に、ありのままを報告すればいいのだ。ナルトに。

「お、カカシ先生。遅くまでお疲れってばよ」
「…ああ。今、大丈夫か?」
「ん?なんかあったのか?」
「……」

火影室に入ると、深夜にもなる時間帯だがナルトはいた。仕事が溜まってんだろうなぁ、と思いながら昔の俺を思い出した。ああ、俺も年取ったな。

「…いや、特にはないよ。あの子の処分はどうなったかと思ってさ」
「あー…。その件だけど、やっぱりすんなりいかねえみたいだ。名前ちゃん、精神状態は安定してるって聞いてってけどまた何か…」
「うん。まあ、今だけって可能性もあるからな。気になっただけだよ」
「そうか…。長いこと悪ぃな、カカシ先生。」
「いや、俺は楽だし良いんだけどね。まだ納得してくれないって…頑固だねえ」
「だろぉ?もういい加減折れてくれてもいいものを…。根拠もねえ巻物ごときで」
「……そうだな」

根拠もない、…そうだ。俺もそう思っていた。けれど今になって、もしかしたらの可能性が見えてきてしまった。本当に里の…世界の脅威になるかもしれない。それなのに、何故、

「処分が決まればすぐ連絡すっから。ちょっと待っててくれ」
「ああ、悪いな。ナルト」
「そりゃこっちのセリフだってば」

申し訳なさそうに笑うナルトに、胸が痛んだ。俺、は…、……一体、

「じゃあ、俺は帰るよ。ナルトも早く帰りなさいよ」
「おう!もーすぐ俺も帰る!ってか、カカシ先生こそそろそろ家帰ってやれよな。あいつ、寂しがってるらしいぞ」
「ハハハ。ちゃんと帰るよ。」

―――…一体何がしたいんだ、俺は。

火影室を去った後、久々に家に帰った。ドアを開けると深夜にも関わらず彼女が出迎えてくれて、2週間ぶりだねと言われた。そんなに経っていたのか、と思いながら謝った。抱き締められた時、すぐに抱き返せなくて余計、心臓が戸惑っていた。