あの日から稀に分身の術ができるようになった。はたけさんに他の術の印も教えて欲しい、とお願いしたが曖昧にされたまま。退屈になるなぁと思った矢先、身体の怠さに気付く。そのせいか、お昼ご飯はほぼ食べられなかった。

「お腹空いてなかった?」
「いや…ただ食欲がなくて」
「…どこかしんどい?」
「うーん…。ちょっと、ぼーっとします」
「…ちょっと入るよ。」

鉄格子の一角に設けられたドアを、鍵を使って開けている姿を初めて見た。はたけさんはいつも、瞬身らしきものを使ってたから。多分。おでこに手を当てられると、ひんやりしてて気持ちよかった。

「うん。熱がある」
「…風邪?」
「多分ね。とりあえず横になろう、動ける?」

2、3歩歩いたところに布団が敷いてあるのだが、風邪、と言われると無駄に症状を重く捉えがちらしい。立ち上がるのが嫌だ。はたけさんの質問に、答えられずに下を向いた。すると、んー、ゴメンね。と呟かれて身体がふわっと浮いた。

「…まさに王道的展開で萌えます…。」
「そう言える元気があってよかったよ。」

お姫様抱っこ。は、夢小説の中でなかなか好きな部類に入る。しかも相手がカカシ先生なんていうからウホウホだ!でも、その嬉しさを表現できるだけの体力はない。布団に寝かせてもらうと、まだされたかったなぁ…。と思いつつはたけさんを見上げる。

「………薬、貰ってくるよ。」
「あ…」

何故かすぐに顔を逸らされたのと、心細いのと、寂しいので咄嗟に腕を掴む。…それでも振り返ってくれない。

「……はたけ、さん、」
「…どうしたの」
「いかないで」
「…!」

熱に侵された私は謎に無敵だ。ベタな夢小説展開なんて小っ恥ずかしいと思っていたのに。キュ、と裾を握ると、眉を下げて困ったような表情をしたはたけさんが振り向いてくれた。

「…狡いね、お前は」
「……え?」

小さく発せられた言葉は私に届く前に、頭を優しく撫でられて終わった。その間にだったか、はたけさんがもう一人居て牢屋から出て行った。

「……?」
「あいつは影分身っていってね。実体もあるし話せる優れた俺の分身だよ。」
「ああ…。」

ナルトが初っ端の方で身につけた技か…。と思いながら、隣に座ってくれたはたけさんに安心する。もう頭を撫でてくれないのが、残念だが。

「あいつが薬と色々取って帰ってくるだろうから、ちょっと辛抱してね」
「……はい。大丈夫、です」
「ん、いい子。」

にっこり微笑まれると、最後の言葉が子供扱いされ過ぎてちょっと胸を刺す。いつもなら流せるソレも、熱のせいで逃げられない。

「……私、」
「ん?」
「わたし…こどもですか?はたけさんからしたら、」
「…どうしたの急に」
「急じゃ、ないです。前からずっと、おもってた…」

朦朧とする意識の中で、気を失わないように堪えながら必死に見上げる。ぼやけて見えるはたけさんは、また困った顔をしていた。ああ…ごめんなさい。でもこんな時しか、きっと言えない。

「ここだと…ナルトや、サクラちゃんより、年下になっちゃうかもだけど……、私……、」
「……、…名前「わた、し……」

あなたのことが本当に好きなんです。と、心臓の中で喚いた言葉達。もちろん言えずに、意識が遠ざかっていく。…あれ、こんなに体調悪かったっけ私……。

けれどそんな私の様子に気付いたはたけさんが、とても複雑な顔をしていたこと。

「………お前は……、」

今日も互いに、外を見ない言葉達が増えていく。