ハイ到着!と言われて手を離される。と、すぐに地面にヘタる私。気持ち悪過ぎてウェッときそうだ。…いや多分これが俗に言う瞬身なんだろうが先に言って!?夢小説で読んでる限りあれ一般人にはキツイって書いてますの!!

キッとはたけさんを睨むも、ひゅっ、と息を飲む。彼の背景が、いつものコンクリートじゃなかったから。

「よ、ぞら、…………」
「綺麗でしょ」

星が敷き詰められていた。呆れるくらい。空気も日本とは違ってビックリするぐらい澄んでいて。空気が美味しいって絶対このこと。不意に涙が出た。

「名前。振り向いてみたら?」
「え、……………」

こっそり涙を拭って振り返ると、人生で一番目を見開いた。と思う。たくさんの家が並んでいて、ちょっとビルチックなのもあって、それを照らす街灯。ポツポツと家から漏れる光が幻想的だ。でもその奥は森に包まれていて、木の葉の里、というのを心臓の底で実感する。

…どうやら今立っているのは高台なのだろう。それも一番の。こんな絶景は、前の世界でも見たことがない。

「……きれい………」
「ああ。最近は里が発達してるから、背の高い建物とかがよく建っててね。綺麗だよね。」
「はい……。あ、そういえば火影岩はどちらに?」
「ん?ここ。」
「あ、そうかここか…………、って嘘!!え!?ここ!?」

驚いて足元を見たけど暗くて全然何も見えない。み、見えないんですけど!!半ば泣き顔ではたけさんに言っても、と何かのツボに入ったかのように笑うだけで。もう!!

「あー、本当最高だよお前は。」
「もー…!!すぐからかうんですから!!」
「ゴメンゴメン。ま!明るい時に見れば良いじゃない。」
「明るい、とき……」

出れるの?外に?と顔に書いてあったようで、頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。

「また連れてきてやるから。」
「……はい。」

その横顔は、暗闇の中でも確かに見えたのだ。私の好きな、あの微笑みで。ここが木の葉の里であること、はたけさんの存在が、私がここに生きているということが実感できて嬉しい。嬉しい、はずたのに。

「……」

…私は感じていた。この外出は、認められたものではない。はたけさんの独断であるということを。だからこそ、次、があることを心から嬉しく思えない。私を外に出したことで彼に何らかの罰が与えられること、予想できないわけではなかった。

そして同時に、なぜ私にそこまでしてくれるのか。大切な人がいる身であるにも関わらず。

「……名前?」
「…え?」
「急に黙るからビックリするじゃない。」
「あ…ごめんなさい。見惚れてて、」
「そうかそうか。俺もまだまだ現役「夜景にです!!」

残念。と、笑ってくれた。それだけでいい。なんて、綺麗事と呼ばれる感情を本気で思えたときが、本当の愛を知った証かもしれない。自分よりも他人を大事に思う日が来てしまったのだ。私が生まれた世界とは、別の世界で。

「…はたけさん」
「ん?」
「私、十分です。いま、この瞬間で」
「……何しおらしいこと言ってんの。お前らしくもない」
「そですか?私いつもか弱い系女子じゃないですか」
「…ったく。そうやって…」
「え?何やりますか私勝てる自信あり「おじさん振り回すんじゃないよ」

声のトーンがいつもと違うくて、隣にいるはたけさんを見上げようとした。けれどサッと背後に回られたらしい。それに釣られるように、振り向こうと…

「………え、……」

したら、それを止めるように抱き締められていた。一気に急上昇する動揺が、パンクしかけている。静かに、後ろから私の首筋にはたけさんの顔が伏せられて。キュ、と私の身体に回る彼の腕の力が強くなった。

「は……たけ、さ……「寒い、ね」
「えっ?」
「でもお前はあったかい……」

全然寒くもない季節だと一瞬思ったが、か細いはたけさんの声にかき消された。直感で、この腕を否定してはいけないと思った。でも、受け入れてもいけないとも思った。

「大丈夫、ですよ」
「…え?」
「居ます、から。」

すると苦しいぐらい抱き締められて、自然と溢れた涙。考え出すとキリがない。だから、…だから今だけ。今だけ、はたけさんを私にください。そう、初めてこの世界で見た夜空に願った。どうしようもなく。