そういえば、素顔が見たいよ大作戦を忘れていた。マスクを脱がせるところだったのに…!なんて夜になって悔やむ。気温はまだ丁度良いままだ。はたけさんによれば里中のニュースになっているらしい(異常気象が)。

「涼しいから寝やす…、あ、いなかったっけ」

思ったことを呟くと、ふと気付く。はたけさんがいない夜が、久しぶりだった。なんでも今日は家に帰らなくてはいけないらしく、すごく謝られて帰って行った。…いや、そもそも理由を私から聞いたわけでもないし、勝手に言ってきたのは彼だ。

「なーんかあるんだろうなあ…。」

彼女かな、とは口から出なかった。でもどんな顔して彼女に会うんだ?添い寝事件&バックハグ事件を忘れたとは言わせない。正直、…なかなか気を持たせられてると思う。いい歳なんだからちゃんとして欲しい。…て、それは厳しすぎか?

てかよく考えたらなかなかの歳の差だった。芸能人レベルだ。そんないい歳のおじさんが、わざわざリスクを背負って私にきてくれるのだろうか。身元も記憶も不明の私に。…まあ設定だけど。でも生まれた世界も生きてきた世界も違う。しかしはたけさんに芽生えた感情は、残念ながら本物だ。

「はぁ……。」

不毛な恋なんて、大好きだったんだけどなぁ。

***

「行方不明者が12人…!?」

家に戻る前、ナルトの元に報告に寄ればどうやらそれどころじゃなかったらしい。そんな教え子は真剣な表情でシカマルと話していた。邪魔そうだから帰ろうかと思えば、逆にシカマルがその場を離れていった。どうやら小隊を組んでこの事件の調査をするらしい。

「そうなんだってば…。俺も頭いてーんだ、この件は」
「前から何人か…行方不明者が出てたな。それに関連は?」
「…多分だが、関係はある。全員一般人だし、消えた状況も一緒だ。突拍子もなく突然消えてる。」
「合計で…ざっと20人ぐらいか?」
「ああ…。正確には19人だ。…もう里で噂になっちまって」
「噂?」
「全員、"神隠し"に遭ったと」

神隠し、ねぇ…。と呆れた声が漏れる。そんな俺に同じような溜息をついたナルトだったが、すぐに里の長の顔に戻る。俺も火影を経験したから分かる。可笑しな現象や噂でも里中に広まれば、それは本物のように驚異になる。そして里外に漏れ、弱みを見せる火種になってしまう。甘く見てはいけないのだ。

「でもなんで神隠しだと?事件や誘拐じゃなくて」
「攫われた人間が皆、良い意味で何もしてないんだ。真面目に働いてる10代だったり、良い母ちゃんだったり。それに皆年齢も性別もバラバラ。統一性がねえんだ。」
「だから事件性はない、とみんな思っちゃってるわけね…。」
「ああ。でも、」
「もちろんそうとは限らない。そもそも神隠しなんて有り得ないしね」
「まあな…。」

すっかり里の長の顔だ。それが嬉しいような、少し悲しいような。そんな俺の表情に気付いたのか、あ。と間抜けな声を出したのはナルトで。

「カカシ先生、なんか用あったんじゃなかったのか?」
「ああ、いつもの報告だよ。変わりなし。」
「あ、名前ちゃんな!元気になってくれてよかった。」

ニカッと笑うナルトに、気付いていないわけではない。名前が外に出られない理由と、今回の事件がリンクしていることぐらい。でもあえて口に出さない。分かりきっていることを話すことは、苦痛と分かっていて再度味わうようなものだ。

「カカシ先生、」
「ん?」
「…なるべく早く、解決する。」
「……無理はするな。分かってるから」

ああ、と微笑んだナルトはもう立派な火影だと思った。ならば俺は出来ることをしなければならない。部屋を出ると、何かがストンと胸に落ちてきたような気持ちだった。歩む先は二つとない、一つしかない。そしてそれが正しいかどうかは、俺が決めることだ。例えどんな結果が待っていたとしても。