誰かが話す声が聞こえる。…複数、低い声。私、車に轢かれてその後…?でも身体は痛くない。どうして…と思いながらも、激しい船の上にでも乗っているかのような酔い具合。米でも担ぐみたいにされてんだろう。目を覚ましたら2秒後に吐くことが予想できていた。でも、目を覚ます以外方法はなく……

「う゛ぇ」
「えぇ…」

誰かが嫌がる声。ホントゴメン。あなたの背中に思いっきりぶちまけました。

***

ビシャッ!と何かを掛けられて無理矢理地上に意識を降ろされました。ぼんやりとした視界に入ったのは、強面のおじさん。机を挟んで向かい合っているらしい。…今掛けられたのは無駄に冷たい水だったようだ。

「……?」
「名前は」
「…ここは、」
「俺の質問が先だ」

やっと視界が良好になって気付く。窓もなく、全面コンクリートで覆われているこの部屋は、きっとよろしくない部屋だ。目の前のおじさんも、コスプレのような格好、をして、………

「え」
「なんだ」
「………いや、大丈夫です」

コスプレと思った瞬間、おじさんの首に掛けられた木の葉の額宛に息をのんだ。……私、は、さっきまであの子と飲んでいて、飲み過ぎて車に轢かれるという夢小説的展開をしていた。でもまさか、まさか…!望みすぎて掠れるほどのトリップが現実になるなんて涙が出そう。…

「泣くほど怖いか」
「…まあ、」

ゴメン。まさかトリップしたのが嬉しすぎて泣いてるなんて言えない。でもこの展開は、夢小説を読み漁った私からすれば今から拷問される、と考えるべきか。ゲロ掛けた人は…、私を火影の元に連れてったってことか?いやその間の展開見たすぎたでしょ……。てかゲロ掛けた人誰?カカシ先生とかいうオチは!?普通の展開で言ったら見つけてくれた人の元で暮らすのが一般的だよね!?(夢小説)

「おい」
「はっ、ごめんなさい何でしたっけ」
「お前、自分の状況が分かっているのか?」
「……」

いかん。妄想に走ってしまった。てかよく見たら両手両足イスに拘束されてるね。そして水を掛けられ。拷問部屋?に閉じこめられ。……え、夢小説展開にしてはヘビーすぎやしないか?

「もう一度問おうか。名前は」
「……名字名前です」
「そうだ。素直に答えてくれればいい。そうすれば酷いことをせずに済む」
「…」

ひ、酷いことって何だよ…。ビビりすぎて普通に返答したが、これ以上の素性は明かさない方がいい。このおじさんはイビキさんじゃないし、今の時代がいつか分からない。ただのモブキャラ?それとも創世期か、次世代か。もしナルト少年期だったら、私は未来を知る人となる。し、謎に現実的だから、未来を知っている私の扱いは多分小説なんかより酷いだろう。

「名字、名前と言ったか…。お前は死の森で倒れていたようだが?何故禁止区域に足を向けた」
「…え?」
「記憶にないのか?」

はい、と頷きながら、死の森、というワードにテンションがハイになった。やはりここはナルトの世界だ。特殊設定とかあったりすんのかな。写輪眼でもいいなぁ。でもやっぱり夢主だけの特別な眼とかがいいなぁ。なんて妄想していたことがバレたのか。

バンッ!と机を叩かれて背筋が凍る。鋭い目が、私を止めた。

「…木の葉の住民に名字名前という名前の者はいない。お前、どこの里から侵入した」
「!」

木の葉にも住民登録ってあるのか。って、感心している場合ではない。これはかなり疑われている。スパイとかそういう系と勘違いされている。でも、誤解を解く方法が難しい。ありのままを話したとて、原作を歪ませるのは夢小説派としては頂けない。かといって嘘をついても、必ず吐かされる事は間違いないだろう。

「分から…ないんです。起きたら、ここにいて…。その、死の森?っていうところにいた記憶も、今なんでここにいるのかも分からなくて…。記憶がごっそりないんです」

「記憶喪失とでも言いたいのか?」
「……多分、そう、だと…。」
「忍であるかどうかは?」
「分から、ないです…。」

それでも、嘘を付かなければ。きっと脳内とか何らかの術で見られたり、薬を盛られて吐かされたりするのだろうけれど。あー、この空気感、重い…。夢小説じゃない、悪夢小説だよこれ。怯えながらおじさんを見上げると、急にバチンッ!と頬に鈍い痛みが走った。……え?

「忍ではないようだな」
「…」

いや、確かめ方荒っ。思い切り打たれたのか、口の中に鉄の味が広がる。ああ…私悪い者じゃないって。ただの一般人…。この仕打ちは酷い。でも向こうも向こうで木の葉を守らなきゃだから、仕方ないのか?…もうどうでもいい、助けてくれ。これ以上の痛い目なんて、目に見えているから。

ふと、急に身体が重くなり意識が遠のいていく。気を張りすぎたせいだろうか。目の前のおじさんの姿は、ぼやけて見えなくなった。