「…ん」

重たい瞼をあげると、湿気て籠もったニオイ。先ほどとは違う部屋にいるようだ。ただ、またコンクリートに囲まれた部屋だが。上半身を起こすと、手足首が異様に重い。ジャラジャラ、と音がしたので目を向けると、手錠の先に重しがついていた。…これ、足枷?手にも同様のものがあった。

「……悪趣味…」
「あ、起きた?」
「え」

声がした方に目を向けるも、暗すぎてほぼ見えない。もう拷問は終わりなのか、それとも場所を変えて継続なのか。…ここはどういった意味の部屋なのだろうか。怯えた雰囲気が伝わったのか、あー、と空気の抜けた監視員らしき人の声がする。

「大丈夫、取って食ったりしないから」
「……ここは」
「んー、さっきの部屋とは違うよ。」
「じゃあ、一体…」
「ちょっとの間、君をここで保護することになった…って感じかな?」

薄暗くて顔の表情は分からないが、監視員の人は鉄格子の先で椅子に座ってうっすら笑ってくれた気がした。声質から男性のものと分かる。なんか心地よい声だな…と酔いしれる前に気付く。

「ここで、保護…?」
「そう。でも三食出すし、布団もあるよ。ちょっと空気は重いかもだけどね」

待て待て待て!念願のトリップをしたのにこんなコンクリート部屋に閉じ込められるだと!?完全牢屋じゃんここ!主要キャラに会えないじゃないか!!荒ぶるけど何とか持ち直す。冷静になれ、私。

「…さっきの部屋で、色々聞かれました。容疑…は、晴れていないということですか?」
「いや、君は本当に記憶喪失みたいなんだけどね。なんせどの里にも戸籍がないっていうから…」
「!」

どうやってあの拷問部隊から逃げ切ったのか。私。不思議だ。最後の記憶だと、急にビンタされて気失っただけなんだけど。そこは夢小説的なノリでOKなの?……OKなら、いいんだけど。え、でも、そしたら…

「その疑惑?が晴れるまで、私…ずっとここなんですか?」
「んー…。どうだろうねぇ…」

それ遠回しのイエスですよね。多分めちゃくちゃ疑われてるんだろうな。だってこの足・手枷とかガチだし…。つまんねえトリップするなら、元世界でカカシ先生と恋愛してる方が、よっぽど…

「ま!チャクラは一般人レベルだし、忍じゃないと俺は思ってる。ちょっと外に出るまで時間掛かるかもしれないけど、その間は俺もここにいるし、仲良くしようじゃない。」
「……」
「はいとは言いづらい、か…。」

そりゃそうだろうよ。せっかく来たのに牢屋バチコーン!な現実的。もっと逆ハーレムあってもよかったじゃん…。と、項垂れつつも実際のナルトの世界に怯えていた。命と命を賭け合って生き延びている世界だ、余所者には厳しくて当たり前なのだろう。自分の楽観さが嫌になる。でもそうでもないと、やっていけないのだ。

私を知る人は一人もおらず、頼れるべき人もいない世界なんて。

「…ここは、」
「え?」
「ここは、冷たい…ですね。」

床を手で触ると、悲しいぐらいひんやりとしていた。日差しも入ってこない、コンクリートに囲まれた部屋。ここにずっといるなんて、精神が削がれていつか死にたくなるんだろうな…。ぼんやりとそう思っていれば、ボウッと火が灯った音。

「え…」
「ごめんね。明日からランプを置くようにするから…今日は、これで勘弁してよ」

監視員の人の手に、小降りの炎が灯っていた。そんな気遣いも嬉しかったけれど、ここに来て、一番の衝撃をもらった。

「え…、あ……」

炎に薄っすらと、照らされた顔。

「ん?どうした」

視線が交わると、心臓が悲痛なほど悲鳴をあげる。

「………あ、の、…お名前、は」

震える声を絞り出したら、弓なりに重なった瞼。ダメだ、

「あ、そっか記憶がないからか。気が利かなくてごめんね。はたけカカシです。」

愛おしく、毎日恋愛をしている相手でした。