それからはたけさんは、出来るだけ私の側にいてくれてるようだった。と言っても、話し相手をしてくれる時もあれば伝説のあの本を読んでいる時もあって様々だ。一緒にいてくれるのは嬉しい。ただ、問題がある。

「………はたけさん」
「ん?」
「ヒマです」
「…だね。」

多分もう1週間になる。初めの2〜3日は恋い焦がれたカカ…いや、はたけさんに会えての喜びで持っていた。でもさすがに何日も持つはずもなく…。私に至っては、暇潰し用具を一つも持っていないので干からびる手前である。

「俺の武勇伝は…」
「もう聞き飽きました」
「だよね。」
「だよです。」

はたけさんのこれまでの人生の話が聞きたい、と願ってかなり聞いたものの、私はまだ疑いの身なので触り部分しか教えて貰えず。同じように、里のみんなの話だって、大概の質問はそうだ。そんなんが聞きたいんじゃない。もっとドロドロして面白いやつが聞きたいのに!!

「もうこのままだと死んじゃいます…。」
「そんな簡単に死なないから大丈夫」
「はたけさんはいいじゃないですか…イチャパラ読めて…」
「もう読み過ぎて暗記しちゃったけどね。」
「え!じゃあ朗読会しません?」
「え」
「え。じゃなくて。朗読会!イチャパラの!!効果音付きで!吐息付きで!!」

いや何言ってんの、と鉄格子越しに眉を下げて笑うはたけさんの色気がすごい。おじさまになってもそれは健在で、毎回ムフムフなるけど、ちょっとずつ慣れてきてしまっている。良いのか、悪いのか…。

「たまに思うけどさ、名前ちゃんって変態だよね。」
「!?…そんな、」
「46歳のおじさんに朗読しろって、なかなか無いよ?」
「じゃあ46歳のおじさんってこんなに色気ムンムンですか!?イケメンですか!?ハァハァなりますか!?」
「……うん、ストップ。俺が悪かった」
「はい。分かれば良いんです」

そういう理由であれ、微笑んでくれるはたけさんを見ると堪らなくなる。慣れてはきたが、やはり夢の中の相手だから。初めは牢屋とかコノヤロウ覚えとけとか思ってたけど、ある意味ずっと一緒だから。まあ、はたけさんは任務だろうけど。

…でも、こんなすごい人がずっと私の元につくっていうのも、何かあった時のため。と思っていたがもう1週間も経つ。はたけさんから変わってほしくはないが、過保護すぎる気もする。夢小説設定だから?いや、何か、もっと…

「はたけさん」
「なーに?」
「はたけさん以外の監視員の方は、いないんですか?」
「…んー、俺だとつまんない?」
「いやいやいやそういうわけじゃ…!逆です、逆!」
「逆?」
「はい。はたけさんともあろう方が私なんかの側にずっといてくれるのが、不思議で…」

あー、と頭を掻きながら笑ってくれた。…私その笑顔で白米3杯いけます。っていかん!すぐ妄想に走ってしまって本質を見失いがちだ。ジャラ…、とふいに手錠が鳴って、いたたまれない気持ちになる。

「名前ちゃん」
「…え?」

近くで声がして、顔をあげると鉄格子越しに彼はいた。

「もうちょっと俺と居ようよ。」
「!」

ちいさく微笑んでくれた。頭ポンポンがあったら、最高だったんだけどなぁ…。と願うのは欲張りすぎか。色々教えて貰えなくても、まあいっか。なんて思わされてしまう。結局丸め込まれるのはいつも私だ。