「はたけさんって結婚とか興味ないんですか?」
「え?」

ふと、感じた疑問を投げてみただけだった。拘束されて10日目、暇だからっていうのと、本当に興味があったのと半々。目を点にしてこちらを向いてくる辺り、突拍子もない質問だったのだろう。

「どうしたの、急に」
「いや、単純に興味で。こんなイケおじだし」
「イケおじって…」
「で!どうなんですか?」

目をキラキラさせた私が眩しかったのか、視線を逸らされて怪しさが増す。…勝手に、彼女とかいないって思ってたけど(夢小説設定)。これは、もしかして、もしかして……

「……彼女さんとは長いんですか?」
「んー、どうだろうねえ」
「!え」
「いないと思ってたの?」
「え、…あ、いや…」
「おじさんの独り身なんて悲しいでしょ」
「そう、かも、ですけど…。」

ずしん。と何かとてつもなく重たいものが胸にのし掛かった。

夢小説設定は、やはり、夢である。現実的に考えたら、はたけさんの言うことは正しい。46歳の独身男性が、一人のままだなんて普通は考えにくい。しかも、はたけさんぐらいのイケメンと地位と身長。彼女の一人や、二人…

「名前ちゃん?」
「…」

天国から地獄へ堕ちた気分。生きる理由を無くした感じ。大げさと言われても、今回だけは否定したい。

「…現実重てぇ……」
「ん?」
「いえ。…で、結婚の、ご予定は……」

明日になるまでに3回死ねる自信がある。それくらい、心の拠り所になっていた人だった。いや、だってこの人しか会ってないから仕方ないと思う(ゲロ吐いた人と)。

けれど勝手に、夢小説でいうメイン相手にしちゃって。向こうも同じ気持ちでいてくれたりなんて思ってた。私…ダッサ。かなりのショックを受けてるけど、受けるなら今全部欲しい。落ちるならドン底まで、みたいな感じ。返答が恐いけど、

恐る恐る見上げると、少し意地悪な表情で笑っていた。

「え…「ナイショ。」
「な、内緒って返答あります!?」
「あるある。そもそも、なんで君はこんなおじさんの話気になるの?」
「なるなるなる!ってか、興味を持てるのも返答してくれるのも、はたけさんだけだし…」

実は、意地悪な顔が格好良くて痺れています。ので、ごもっともなことを言ってみたら、あぁ、と納得していた。わざとらしいシュンとした顔に気付かないでくれ。このまま騙されて、結婚するかどうか教えてほしい。

「結婚はまだかな」
「…え、なんで?ですか、」
「んーまだタイミングじゃない、ってところかな」
「タイミング…」

大人の返答かよ。てかまた上手く誤魔化されてない!?私!?なんだかスッキリできなくて、振るならキッパリ振って欲しくて(告白してない)。足枷をガシャガシャ鳴らす。…駄々こねてる感が凄いが。

「また誤魔化して」
「なんでそんな不機嫌なのよ。ちゃんと答えたでしょ?」
「上手く流された感がすごいんですもん!!」
「あれ。ちょっと成長したね」
「はたけさん!!」
「ウソウソ。ごめん、可愛くてね。つい」
「かっ、かわっ…」

ほらもう、そうやって!!上手いことする!!もう!!手のひらで転がされてる感凄いけど、いつもならここで終わるけど!今回は諦めない。今後、ここで生きていく気力に関わるから。真面目に。

「物好きな子がいてね」
「えっ?」
「でも囚われのお姫様で」
「…ん?」
「ちょっと放っておけない感じで」
「…もし、かして」
「その子が自由になるまでは結婚しない、かな。」

目が弓なりに重なって微笑んでいたはたけさんは、今までの中で一番やさしい顔をしていた。同情だろ?と言われれば、今なら猛烈に反抗できる気さえした。ああ、私簡単だな。すっごい好きだ。どうにもならなくたって。