てか普通に考えたらあれだけ格好良くて忍としても強くてそれなりの名誉もあれば、そりゃ遊ぶわな。女の方から勝手に寄ってくるだろうし。前の人を思ってずっと一人でいますとか、そんな綺麗な話はそれこそ夢小説の中に限る。

それに、初対面でいきなり泣き出す女とか奇妙だし次会うことは多分ない。お店なら別にあるしわざわざ私がいるここじゃなくたって、。だから、まだ、…モブキャラに戻れるはずだ。出来ればここを辞めて他で働きたいがなんせ戸籍がないので!!…

「……」

無でレジを打ちながら、先日たどり着いてしまった答えに思い溜息をつく。…やっと気付いたのだ。大蛇丸のいう切り札の意味に。

予言の書は、奴がはたけさんに開けさせるから意味があったのだ。……初めに見つけたのが彼だから、予言の書の子らしい私の監視員をさせたのだとしたら?

ナルトとかだったら、悪気なくそう言ってもおかしくない。それに未来のはたけさんは隠居されて時間もあるし、力もある。もってこいの存在だ。私なんか、頼る人が彼しかいなければ好きになるに決まってる。それを大蛇丸が見越していたとしたら、……最高の切り札だ。だって、大蛇丸にあの予言の書さえ木の葉に送らないように頼めばいいだけの話だ。この眼を、渡して……。

「だから今は木の葉に返してあげるのよ」
「…今じゃないってそういうこと?」
「ええ。お前は必ず、自ら私にその眼を渡したくなるわ。必ずね…」


だから、あれはそういう意味だったのだ。私が木の葉に戻されたのは、はたけさんと関わらせることだっていうこと。関われば関わるほど、彼にあの未来を味わって欲しくない。そう思うから。それに関わらずとしても、彼を思うなら……ってところだ。なんとも卑怯で大蛇丸の考えそうなことである。

私と関わらなければはたけさんは死なずに済む、と今まで思っていたけど。どっちだって一緒の結末しかないのだ。

けれどあの女の人の隣にいるはたけさんを見て、そこまでして頑張る理由ってなんだったっけ、とミリ単位で思ってしまうのも確かで。薄情だ、分かってる。でも……

「……はぁ」

なんて、そんなことばかりを考えていた、あれから数日後の今日。無表情でレジをこなしながら、ふとシカマルの存在を思い出す。急に泣くっていう恐怖映像を見せてしまった後から会ってないなあ。…まあ近々来るのだろう。どんな顔をして会えばいいものかと考えた時だった。

レジ台にふと置かれたレモンジュース。…ダメだ、ボーッとしすぎた。と意識をしっかり持って目の前の客に挨拶から、

「いらっ……、」
「この間はどうも」
「………!」

続く言葉はスパッと落とされた。そんな私を気にもしないように、見える片目だけがうっすら微笑んでいた。…動揺だけが騒いでいる。こんなに近くで見るのはこの時代に来て初めなわけでひゅっと息が詰まる。それもはたけさんのことを考えていた時だったから特に!…そんな私をよそに、お金を渡してくる。待って、まさかこうなるとは思ってなかった!

「…おつり「この前、泣いてたよね?」
「………え」
「知ってるの?俺のこと」
「…!」

……大蛇丸の企みに気付いてしまったから、なんて答えていいか本当に分からない。本当は知ってる、でも未来のあなたと会ったことがありますなんてもっとヤバい奴になってしまう。でも……

不意にはたけさんと目が合ってしまって、気付く。……この人、目が笑ってない。しっかり疑ってる目だ。変に嘘を付いても絶対にバレる。でも、もう嘘しか付けないことも知っている。

「…何度か里で、お見かけしたことがあります」
「……そ。有名人になっちゃったみたいね、俺」
「木の葉で知らない方はいないと思いますよ、あなたのこと」
「それは良い意味で?それとも悪い意味?」

それはどうだろうか…と内心思う。だってこんな店なのに、あまりいない女性のお客さんはみんなはたけさんのことをボーッと見ていた。それも、テレビに出ている有名人を見るような目で。だから話しかけられている私にも微妙な視線が飛んでくる。お前誰?みたいな…。

「もちろん良い意味、ですよ」
「…そう?ならよかった」

はい、と微笑む私はなかなか上手くやれてると思った。…きっとバレてはいると思うけど。色んな意味でそろそろ帰って欲しいので、またお越しくださいと声を掛けた。すると、先ほど買ったレモンジュースを差し出される。

「え…」
「飲む?」
「いや…え、そんな」

差し出されたそれに首を振る。私は買ってもらう関係性でない。でも嬉しく感じてしまった。あの頃を少し思い出した、レモン味。そんなはたけさんは、微笑んでから商品を置いたまま去ろうとする。…ので、とっさに呼び止めた。それが、ダメだったのかもしれない。

「ちょっ…!」
「本当は君のために買ったんだ。迷惑じゃなきゃ貰ってよ。」

振り返って微笑まれたら、ピクリとも動けなくなった。そんなのずるい。

多分話したいが為に買ったか、疑ってごめんぐらいのお詫びの品。でも、絶対知らないはずの、私の好みの味をくれるとこ。でも彼には別の人がいる。苦しい。いたい。でも…嬉しい。

「………」

私はただ静かに、はたけさんが置いていったそれを見ていた。