「え?来てない?」
「ええ、そうなんです。もう3日前からでね…。心配になって、今日家に行ってみたんだが居なくてね…」
「……」

名前が突然泣いた、あの日から一週間後になる今日。任務続きでなかなか店に来れなくて、ようやく顔出せたと思ったらこれだ。…気のせいかよくない胸騒ぎがする。身体の中の大事な何かが失われるような、そんな、

「3日前…。その時、あいつなんか変わった様子とか、」
「特には……。あぁ、でもあの人が来てたよ」
「…あの人?」
「背の高い、銀色の髪のお兄ちゃんだよ。」
「!」
「名前ちゃんと何か話してたみたいだったけどねえ…。」

もうそれしかねえ、と、直感が言った。お礼を言って、足早にその場を去る。正直どこを探せばいいか分からないが、このまま放っておけるわけもなかった。…やはり、何かあったのだ。あいつとカカシ先生は。昔付き合ってたとかか?それとも…それとも、何だ。もうそっち系にしか思考が働かない。……俺、…もしかして

「……っめんどくせぇ…。」

気付けば簡単だった。今までだって、可笑しかったのだ。腹が空いたとか、忍具が買いたいとか、いつも言い訳をつけて店に寄った。それはただ、あいつに会いたかったからだ。年上だからって関係ねぇ。店で働く女の元に通うなんて、よく考えれば分かったものを。…アスマがああなった今、大切な存在を作るのに戸惑っていたのかもしれない。

なんて思いながらも、足はかなりのスピードで里を駆ける。勝手に向かっていたのは…森だ。なんでか分からない、けれどそこにいる気がした。出会って間もないくせに。…初めて会った気がしなかったんだ、初めから。

それだけ焦っていたのか。バッと腕を掴まれて、無理矢理足が止まる。それは、

「…!」
「どうした?」
「…アンタには関係ないっす……、カカシ先生」

多分、あいつをこうさせた大きな原因であろう人だった。思う、この人はつくづくタイミングが良い。良い意味でも、…悪い意味でも。

「焦って周りが見えてないなんて、お前にしては珍しいと思ってね。」
「!」
「何があった」

そう心配してくれるその顔は、悔しいが男の俺からしても格好良い。…そりゃあいつがそうなってもおかしくないか。まぁまだそうと決まったわけじゃねえけど。でも、多分。

「……名前?」
「…あ、はいなんでしたっけ」
「お前…、なんで泣いてんだよ…」
「え?」


あの涙は、多分…―――。

「シカマル?」
「!すんません」

呼ばれてハッと意識が戻る。もういいのか?と言われて眼を見開く。…そうだ、今は、そうじゃない。あいつを…名前を探さねぇと。この違和感は……多分間違ってない。なんで、と言われれば分からない。だが、勘が酷く疼くのだ。目の前のこの人に、頼らなければいけないということも分かるほど。

「……カカシ先生、今時間あります?」
「うーん。ないこともないよ」
「悪いんすけど…人捜し、手伝ってくれませんか」
「人捜し?俺の知ってる人?」
「顔見知り…ぐらいかもしんないすけど。3日前から消息不明で」
「名前は?」

次の言葉を投げたら、この人はどんな顔をするのか。それで全てが決まる気がした。俺も…先生の思いも、その行方も。

「名字、名前です」
「名字名前…?」
「カカシ先生、前…そこの店で鉢合わせたことあるんすよ」
「…その時お前もいた?」
「…まあ」
「……この前の泣いてた子?」
「、はい」

いつも薄く微笑んでいるような目をしていたのに、俺が頷くと開眼した目と視線が合った。そしてすぐ、どこまで探したかを聞かれ、どの範囲を探し合うかを決めた。途端、カカシ先生はすぐ瞬身で消えるものだから俺の駆け出す足が一歩遅れた。……その差すら痛感する。何かが圧倒的に劣っているということを。あいつには、俺じゃないんだということを。

「……ちっちぇな、俺」

そんな利己的な感情なんて、今は邪魔なだけだ。理性をフル活動して"俺"を取り戻す。サッとその場を去って、名前の気配を探りながら走った。俺と同じ気持ちになんなくたって、せめて、…せめて無事でいてくれたら。そう、強く願っていた。