意識がまだ世界にいないようで、願うように考える。前の世界に戻すなら、せめて二部に来た頃(特に初旬)でお願いしたい。もし未来なら…幽閉時代ならまだマシだ、色々やり直しできるし。最悪なのはおめめと会う前。自分で首切る所だ…。

はたけさんが止めに来てくれるという夢小説ならではのシチュエーションだが、その後どうする?逃げ切れるわけもない。死ねもしないし、その後どーすんのかっていう。私は正解を探さなければならないのだ。だからそこに戻ったら、本気の一番最悪タイプ。そしたらおめめ本気で恨…


………

「名前!」
「……まさか」
「落ち着いて、深呼吸できる?」
「…………アイツ…、…」
「……?」

ふと意識が地に着いて、目を開けるとこれだ。あいつマジで恨む!ここに戻るのは嫌だってあれだけ願ったでしょうが!!私の眼のくせに!!ぜってーぶっ刺してやる。

目の前に広がる光景は、本当に死ぬ手前に見た現実そのまま。右手に持っていた包丁で、首を切る手前だ。ご丁寧にはたけさんもいらっしゃいました。…でも、またはたけさんにあんなもの見せずに済んだのは、感謝すべき点だが。

…さぁ私。よく考えなければ。次はない。…けれど、今はそれほどの時間もない。腹立つあいつ(眼)だが、最後にプレゼントは貰ったのだ。……それを、上手く使えばいいだけで。…ただ、それだけなのに

「とりあえず…それ、置こうか」
「……」

心配して私を追ってきてくれた気持ちも、私をも、全て忘れさせるなんて。…すごく簡単なのにすごく難しい。だって私は知っている。あの、忘れられる痛みを。時代が違えどはたけさんは私を気に掛けてくれている。決して思い出してくれたわけでもないのに。それがとてつもなく嬉しくて。……聞かなきゃよかった、眼の使い方なんて。

「……火影様の所には、行きたくありません」
「うん、行かなくていいよ。黙ってるから」
「何事もなかった、みたいに…ひっそり、」
「…」
「ひっそり…生きていたいだけなんです…。」

あなたの側で、とは言えなかった。言いたかった。ただの本音こそ、世界を見ることもなく死んでいくだけ。

持った刃は手から滑り落ちて、私も崩れる。倒れる前に温かい何かが支えてくれて、あぁ知ってる体温だと思った。それが酷くやさしくて、どうしたって涙が出た。慰めてくれるように、壊れたものを撫でるような手で、頭をぽんぽんしてくれる。このまま、この腕にしにたい。、

「大丈夫、大丈夫だから…。」
「…っ」

あなたに生きてて欲しい。でも側にいたい。けれど未来をしってる。それも私のせいで。大蛇丸にこの眼を渡すしか方法もない。でもそれは、この眼にとって正解ではないだろう。ならばまた他の誰かに転生されて、はたけさんはあの運命を辿る。

…この眼にとっても、彼にとっても正解の道なんてあるのだろうか。もしあったとしてもそれは、同じ方向を向いた道なのだろうか。そしてその時、私は……その場にいるのだろうか。

「……分からない、です」
「え?」
「…正解なんて………、…」

落としたナイフを静かに握る。襲った小さな痛みが、滲む血の存在を教えてくれる。…もう、こうするしかないのだ。

「最後にお前に教えてやろう」
「…は?何よクソ眼」
「"私"を発動させたくば、血を流せ。そして強い思いを持って、相手の目を見ろ。」
「血を……?」
「そうだ。記憶操作の発動の鍵は、お前が血を流すことにある。書き換えたい記憶の量が多ければ多い程、必要となる血の量が増える」
「……副作用は?」
「出血多量で死なないことだな。後は"私"を使った後、お前の眼は透明になる」
「透明?」
「ああ。繰り返し使うほど、色を失う」
「……失明するってこと?」
「そういうことだ。くれぐれも大事に使え」


「………」

使いたくなんかない。失明どうこうよりも、また他人になることへの恐怖感と孤独感に耐え切れない。でもこうしないと、ここから逃げる方法はない。そしてこの眼の正解を考えなければ。ギュッと刃を握り直すと、はたけさんにそれを気付かれたらしい。やさしくその手を取られる。

「君に血は似合わないよ」
「……っ」
「里に戻ろう。早く手当てしないと傷が残る」

降ってきた声はあまりにも柔らかく、汚れるのも厭わず手のひらの血を指で拭ってくれもした。……残酷なほど優しかった。前の時代にいた頃の、幽閉されて気が狂った時もこんな感じだった。監視員のくせに牢屋の中で一緒に寝てくれたりして。…だから、

「………わすれて、ください」
「え、……」

溢れた涙越しに、はじめてはたけさんの目を見た。私の大好きな人だった。大好きだから、生きてて欲しいから、この時代の私を全て忘れてください。そう願った。脳裏に浮かんだあの頃のはたけさんを思い出して。