簡単に支えられていた私だったけど、眼の効力が発動したようで力なくもたれ掛かってきたはたけさん。……単純に重い。でも私がしたことはこの重さより遥かに大きくて。意識のない彼を、罪悪感と離れがたい気持ちが相まって抱き締めた。

「……ごめん、なさい……。」

悲劇のヒロインぶっていると言われる人種の気持ちが初めて分かった瞬間だった。そうでもしないとやり切れない。自分の中で処理するには、この気持ちは大き過ぎる。他にすり替えないと、やっていけないのだ。意識のない人間の重さをひしひしと感じながら、はたけさんを木の下に移動させる。

目を閉じた彼はとても綺麗だった。自然と頬に指を沿わせた。すべすべしていて、でも仄かに温かくて、生きているんだと実感した。……もう、会うことはない。多分、今後、一生……。そう、心を決めてから立ち上がった、瞬間だった。

「!」
「……っ」

意識がないはずなのに、手を掴まれて息を飲む。振り返ると、はたけさんは目こそ開いていないが苦しそうに歪んだ表情をしていた。…今までこんなことは、なかった。みんな完璧に意識を失っていたのに、今回はなんで…。分からないが、完全に意識が戻る前に逃げてしまわなければ。と、思うのに掴まれた手が振り解けない。力、強っ。

「……何…を、した……?」
「え」
「今の映像は……、一体……」

映像…?記憶を変えれてないってこと?待って分からない。眼、おめめ!もう意思疎通できないの!?頼む!助けて!一生のお願い!!これ一体どういう…

≪おめめと呼ぶな気持ち悪い≫
あ、おめめ!これ声出さなくても話せるタイプだよね?ねえどうなってんの、はたけさんすぐ起きちゃうし記憶変わってないっぽいんだけど…
≪私は言ったはずだ、記憶を変えるなら意思を強く持てと≫
んーなんかそんなこと言ってた気もする…
≪先程のでは意志が弱すぎる。それに、未来の頃の奴を思っていただろう。だから中途半端に"私"が発動した≫
えっ。それが反映してんの!?
≪そうだ。思い出して欲しいと少しも願ってないか?≫
…………多分。
≪戯け、その気持ちが反映している。だから奴に記憶としてすり替わるのでなく、ただの映像を見せてしまったのだ。≫
な、何の……?
≪お前が思っていた奴の姿だ≫
……え、それ未来のってこと!?え!?見せちゃったのかよおめめ!!
≪"私"を使ったのはお前だろう…まあ頑張るんだな。≫
え、なに。助けてくれないの!?私の眼のくせに!?
≪私はクソ眼だからな…。あぁ、ちなみに"私"は連続して使えないぞ≫
マジでクソ眼…!!

掴まれた手をまた握られて、意識が戻る。おめめが言うに、どうやら私の意志が弱くて記憶は変えられなかったらしい。ただの、未来の映像を流してしまっただけだと。…しかも、もうおめめ(今のところ)は使えないらしい。マジでクソ眼。

「……写輪眼のない…、俺…と…」
「!!」
「………君、が、…牢屋…にいた……」
「…離し、」
「映像、じゃない……。これは、俺の記憶…?」

開眼してしまったはたけさんは、私の手を引っ張るものだから膝が地面につく。かなり戸惑っていて、まだ飲み込めていない様子だ。…そりゃ、そうだ。未来の記憶を映像として流され……、え…、今、記憶って…。

映像として流れた、っておめめは言ってた。なのに、どうして自分の記憶だと分かったの…?はたけさんの戸惑いが移るように、私も訳が分からなくなってくる。そんな私をよそに、頬に指を這わされていて目を見開く。…視線が、交わってしまった。

「……透明……。その、眼……前にも見た気がするんだ」
「え…」
「それに、この、感情……?」
「…、」
「もっと前から…君を、知ってる…」
「…!」

自然と近付いてきたはたけさんを、避ける方法など知らなかった。唇に何かが触れて、抑えた何かが叫んだ。…駄目だ、駄目だ駄目だ、その二文字は言ってはいけない。言っては、いけない、と、思いすぎたせいだ。

「……、」
「………はは…悪い子」

塞ぎ返した唇が、浅く笑っていた。その後すぐに突き合う唇は、私の本心を表すかのように嬉しそうだった。……もう、ただ、何も考えずにこの人に溺れたい。後で苦しむことになったとしても。少しずつ深くなるそれに、息が上がる。幸せだった。もう何が正解かなんてどうでもよかった。